実録!ドキュメンタリー映画3選

事実は小説より奇なり。創作物みたいな現実を過ごしている今観たいドキュメンタリー3選です。

ネットレンタルや配信等、なにかしら家で観られます。 

 

・消えた16mmフィルム

Netflixオリジナル作品。1992年のシンガポール、当時設立されたばかりの映画学校に通う少年少女が、初期衝動だけを頼りに『シャーカーズ』という映画を撮る。しかし、それを撮り終えた後、一緒に映画を作り、自分たちに映画のなんたるかを教えてくれた師匠が、『シャーカーズ』のフィルムを持って消息を絶ってしまう。それから20年以上の時が経った時、突然そのフィルムが戻ってくる。そのフィルムを観かえしながら、当時なにがあったのかを探っていく……。

題材からかなり興味を惹かれるが、注目してほしいのは92年のシンガポールがありのまま写されているところだ。92年のシンガポールにおけるポップカルチャーの在り方、当時の若者たちの暮らし、その空間を生きたことがないのにノスタルジーを感じてしまう。

この映画はドキュメンタリーの形式をとっているが、観ている間に様々な形へと変化していく。シンガポールの若者たちの青春群像、師匠の自意識と人生、青春を過ぎた女性たちの物語、そして何よりも、この映画が公開されることにより、シンガポールの少年少女が作った粗削りな自主制作映画が、20年以上の時を超えて全世界の人々が観る作品となった。という『シャーカーズ』が主人公の壮大な物語に立ち会うことができる。

10代を過ごした人全員に観てほしい作品。自分のがむしゃらだったころがありありと思い起こされるだろう。

 

監督失格

2005年に急死したAV女優、林由美香と、彼女と不倫関係にあったAV監督、平野勝之を題材にしたドキュメンタリー。

映画前半は1996年、監督と由美香さんが東京から北海道の礼文島まで自転車旅をするロードムービー。疲れや愚痴、ヤケ酒に嘔吐、喧嘩と仲直り、これが売り出されたのか……と思わされる、至極個人的で甘い蜜月を記録した、とても生々しい映像だ。このロードムービーの撮影後、2人は別れるが、その後も良き友人として関係を続け、監督は由美香さんの姿を写し続ける。

そして2005年の由美香さんの誕生日前日、監督は由美香さんのお母さんとともに由美香さんの遺体の第一発見者となる。この時もカメラは回っている。そう、この映画は、自分のかつての恋人、また、自分の娘の死を目の当たりにする瞬間がカメラに収められているのだ。

前半と後半で、それぞれむせ返るほどの生々しい「生」と「死」を見せる。

「こんな匂いしてたらもうだめだよ」という言葉を由美香さんのお母さんが叫ぶが、私も諸事情により人の死臭を嗅いだことがあり、その時のツンとした匂いが蘇ってきて辛くなった。

監督は由美香さんが亡くなった後、何年もの間、何も手につかなくなってしまい、由美香さんとの作品や記録を一本の映画にまとめることで、彼女への思いや記憶を浄化しようとする、再生への物語となっていく。

そもそも不倫が褒められたものではないし、その生々しさから、正直かなり体力を使う作品だが、これほどまでに「誰かの人生を垣間見る」ことのできるものはないと思う。

 

・港町

想田和弘監督の観察映画シリーズ。岡山県牛窓という港町の漁師のおじいさんに声をかけるところからこのドキュメンタリーは始まり、そこからどんどん牛窓の人々の生活内部へと入ってゆく。

説明がしづらい映画なので是非観て欲しいのだが、はじまりは魚を捕るところから始まり、そこでの生活を経由し、病院、墓地へと向かってゆく。生きているものや、生きる行為を撮っている間に、死や忘却へとたどり着く。これが演出ではなく、ある一人のおばあさんによって導かれるという、奇跡のような映画になっている。途中1か所、かなり笑えるシーンがあるのだが、これもかなりの奇跡によって撮られている。奇跡を目の当たりにしよう。

この映画はモノクロで撮られており、それゆえなのか、どこか実在しない町を見ているような感覚に陥る。しかし、ラストシーンで「この町も自分の住んでいる世界に確かに存在しているんだ」と強く思わされる。

想田監督の最新作『精神0』は、現在「仮設の映画館」で観られるので、気になったら是非観てほしい。映画館と配給会社への募金にもなるよ。

 

ほかにも『白昼の誘拐劇』とか『太陽の下で』とか、好きなのたくさんあります。

仮設の映画館で観られなかったドキュメンタリーたくさんやるの嬉しい。『プリズン・サークル』絶対に観る。