今月観た映画

これからまたどうなるかはわからないけど、とりあえず復活ということで……。今月劇場で観た映画の感想です。

 

・ライト・オブ・マイ・ライフ

ケイシー・アフレックが監督、脚本、主演の作品。女性のみが死んでしまうパンデミック後の世界で生きる父娘の話。ちょっぴりタイムリー。

深い森の中でひたすらに落ち着いて静かな画が続き、とても心地よい。

父娘が森でキャンプを張ってサバイバルをしているという『足跡はかき消して』と似た題材だが、こちらは命を狙われたりしてさらに物騒。暴漢から逃げつつ、旅が進むにつれて周りの環境も変わってくなど、ロードムービー的な楽しさもあり、しかし2時間無駄のない作品となっている。タイトルも秀逸。

娘役のアナ・プニョウスキ(良い名前)の中性感、息子として偽っている時はかっこよく、しかし父に甘えるときや駄々をこねるときは可愛く、その演技の振り幅にびっくりした。これからがたのしみだ……。

『ア・ゴースト・ストーリー』の幽霊でお馴染みケイシー・アフレック。お兄さんとは違って繊細な作品ばかり出ているが、こんなに繊細な脚本も書けるという才能を知った。

 

・デッド・ドント・ダイ

つまらなすぎてテンションが上がったジム・ジャームッシュの最新作。ビル・マーレイアダム・ドライバーがゾンビの溢れる夜を生き延びようとする話。ひさびさに背筋がピンッとするほどつまらなかった。

まずキャラクターの魅力がない!ゆえにテンポが悪い!今作のキャラクターへの興味の持たせ方が「あの映画に出てたあの人がこんなことやるよ!」というもので、作品内でそれをすることへの諦めに見える。心地よい無駄な会話劇が楽しいのはキャラクターが魅力的なのが大前提なのであって、いくらキャストが良くても魅力のないキャラクターのだらだらとした会話は苦痛だ。

さらにその肝心な「あの映画のあの人がこんなことを!」がことごとくスベっている。スベった上に天丼する。頑張りすぎて訳分からなくなってる学生芸人(コント)を観ているような気持ちになった。

そのほかのくすぐりも良くない。今作内で完結しないギャグしかしないのだ。例えば「アダム・ドライバーの鉈の振り方がカイロ・レン」など、外の作品に頼りきったギャグしかしない。現場はさぞ楽しかったんだろうよ!

中途半端なゴア、雑なメタ構造、ほっぽり出されたように見える不憫なキャラクター達、トンデモ展開、手慰みのようなナレーション等、たくさんだめな部分はあるが、一番悲しいのは最後の説教パート。今までのゾンビ映画で何度も描かれてきたことを言葉そのままで言ってくる。伝えたいことを直接言わずに届けるのが映画なんじゃないのか!大学の講義じゃないんだぞ!

ジム・ジャームッシュ×ゾンビだから面白いのに、ただのジャームッシュの(しかも今までよりずっと出来の悪い)映画になっていた。私は今回まったくノれませんでした!そしてこうやって"つまらなかった"と言うことこそが作品内における「ゾンビ」になってしまう。どんな言葉も「これがジャームッシュだから」の一言で全てねじ伏せられる。つまり観客に選択肢は与えられていないのだ!万歳!

シネフィルの嫌な部分を地獄の釜で煮出したような作品!嘲笑マウンティング文化が産んだ負の産物!まさに「名状しがたき悲惨」(ある種の自戒も込めて)だ!

 

・ルース・エドガー

優等生の黒人少年ルースが、ある日の授業で強い思想のレポートを書いたことにより、先生はルースを危険視し懐疑的になっていくが……という話。サスペンスというか、湊かなえイヤミスっぽい感じ。

BLM問題など、どの視点からでもそれらと切り離して考えることはできないので、言葉がかなり難しいが、私は肌の色やマイノリティというより、「こうあるべき」という意識についての映画だと感じた。

日本で言えば、小学校ではみんな仲良く、中学校は部活に打ち込み、高校は行事に全力を注ぎ、大学で有意義なだらだらを過ごしたのち、就活をしっかりとして22歳で就職する。基本的にこれが若者の理想的のモデルであり、こうあることが「普通」な世の中だろう。もちろんこれが理想だということに異論はない。

しかし、ここから少しでも外れてしまうと突然「普通」扱いをされなくなる。それがたった1回だったとしても、様々な面で不利になる。そういう社会全体に蔓延する無言の圧力や固定概念はすべての人が持っているものであり、そこに特別な悪意もない(と信じたい)。しかしその「こうあるべき」という意識に苦しめられている人は確実にいるし、反発心を持つ人もいる。それに気付けよ、という静かながらも強い主張をこの映画から感じた。私自身もいわゆる「普通」から外れてしまったからこういう感想なのかもしれないが。

 

・凱里ブルース

『ロングデイズ・ジャーニー』で衝撃を受けたビー・ガン監督の処女作。こっちの方がさらに好きだった。

なんと言ってもどう撮ってるんだ?という気持ちしか起こらない40分ワンカットのシークエンス。さっきここでご飯を食べていた人が、川の対岸で作業をしていたりする。カメラの手ブレの感じは少しドキュメンタリーっぽく、凱里という実在する土地に存在しない町を作り出し、夢と現実が入り乱れたようなひと時を過ごす。観ている間、軽いトランス状態に陥ったような心地よさ。この村が同じ地球にあるということが嬉しくなる。いつか訪れてみたい。

ラストの電車の窓にもグッとくる。グッとくるポイントが多すぎる。グッとくるムービーだった。グッ。

『ロングデイズ・ジャーニー』の時にも思ったけど、この映画を語るってめちゃくちゃ難しい。おすすめするにしても「とにかく観て」しか言えないし、しかしハマる人とハマらない人の差は激しいと思う。しかしこれこそ映画体験というものなんじゃないか……?

 

・悲しみより、もっと悲しい物語

同名韓国映画の台湾リメイク。ピピちゃんが出てるからという不純な動機で鑑賞。原作未鑑賞。英題の『More than Blue』が良い。

ストーリーは韓国映画らしいベタな内容。それをベタを演出させたら最高な最近の台湾映画界が手掛けているので、文句なしに出来が良い。劇中のくすぐりが韓国っぽくてよかった。あのウクレレ少年はなんなんだ。

上にも書いた通りとってもベタな展開なので、安心しておいおい泣ける。ここが泣きポイントでっせ!演出がすこし仰々しいが、私は涙腺ガバガバなのでそういうのも素直に泣く。しかしラストの着地のしかたがとても良かった。良かった!と言っていいのかは分からないが、周りがどんなに手を差し伸べても当人にしか分からない感情がある、ということをしっかりと描いていたと思う。

ピピちゃんがもう少ししっかりと出るのかと思っていたのでわりと拍子抜けしてしまったが、タバコの煙を吹きかけるピピちゃんという最高の画を観せてくれたので、良し!ピピちゃん!

 

・スウィング・キッズ

見逃していた作品。早くもリバイバル上映で新型コロナの功罪の数少ない功の部分ですよ……。

くすぐりもバイオレンスも青春もいい塩梅でいれつつ、話がシンプル面白かった。2時間超えを感じさせないテンポの良さがあった。この詰め込み感、まさに韓国映画だ!

イデオロギーや人間讃歌など、さまざまな面を持っている作品だったが、中でも私が強く思ったのは「好きなことをやるのに理由はいらない」ということだ。やりたいからやる、みたいからみる、踊りたいから踊る、それ以外に何がいる?ということだ。性別や人種、言語や主義主張の違う人々がタップダンスという共通言語で通じ合う、創作や表現をする人たちへの強い想いを感じた。同じ振り付けをみんなで練習するシーンがほとんど無いのが、自ずと同じ振り付けになっていった感があり、とてもよかった。

雨の中で有刺鉄線越しに踊り合うシーン、痺れたなぁ。

 

・燕 yan

台湾と日本を行き来しながら自分のルーツを探る話。米津玄師の『Lemon』のPVを撮った人の初監督作らしい。今村監督。知らなかった。監督と田中要次、水間ロンのトークショー付きの回を観た。

最初はカット多用のチャカチャカした画で、良くも悪くもPVっぽい映画だな、と思いながら観ていたが、話が進むにつれてどんどんと面白くなり、最後にはしっかり泣いていた。一青窈が完全に「お母さんのまなざし」をしていて良かった。しかしラストの歌のシーンは蛇足だったのかな、とも思いつつ。あと鳥の飛ぶシーンは『たかが世界の終わり』だった。

台湾人含む友人達と観に行ったが、台湾語・北京語はかなりカタコトだったらしい。また、これは日本で脚本を書いてから台湾でロケ地を探したのでは、というシーンもあったらしく、これは私にはできない視点で面白い。

私の真後ろの席で田中要次が映画を観ていて、ここで私がウワーッと両手を上げて暴れたら田中要次の人生に私が干渉できるのか、と思うとゾクゾクした。干渉はしなかった。

 

・ストーリー・オブ・マイ・ライフ/私の若草物語

大傑作だ!タイトルシーンがオシャレすぎて頭からガッツリ掴まれた。わりとしっかり原作を踏襲しているのに、しっかりと現代的しかし普遍的な脚色、嬉しいシーンも悲しいシーンもさらりと軽やかなステップで駆け抜けてゆく、非の打ちどころがひとつもない作品でした。必修科目にしてほしい。

そして何と言ってもフローレンス・ピューが良すぎ!映画を観ている間に思ったことを殴り書きするノートに「ピュー子かわいい」と2回書いてあった。前髪のあるピュー子、前髪のないピュー子、はしゃぐピュー子、切ないピュー子……。声が良いんだよなピュー子……。

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全てのキャラが大好きになり、全てのキャラの幸せを願う。観ていてずっと幸せな作品。今年ベスト級の良さ。その多面的なストーリーにより、女性だけでなく、老若男女全ての人に響くとんでもない作品だった。

そしてこれは確実にシャラメ映画だった。『レディ・バード』で培ったシャラメの扱いをさらに上達させてきたな……。パーティーのシーンで一瞬髪の匂いを嗅ぐ仕草、気持ち悪くなるギリギリのラインで最高でした。

 

・はちどり

94年の韓国を舞台に中学2年生の女の子の生活を描く。

本当に嫌で辛いことばかり起きているのに、何故か心地よい映像。淡々としていてとても客観的なカットが続く中、ときどき入る夢みたいに幻想的で綺麗なカットが印象的。家庭内をのぞいているような構図を執拗に使うことで、家族のリアリティを高めている。

全ての登場人物がとても一方的な気持ちを抱えたまま生きていき、ぶつかり合いながらも時々訪れる同じ方向を向いている瞬間を尊ぶ。これって人生だ!こういう「誰かの人生の一部を垣間見る」ような感覚を得たいがために映画を観ていると言っても過言ではない。

アバンタイトルの部屋を間違えてしまうシーン、観終わった後に思い出すとなかなかに恐ろしいシーンで少しゾッとしながらも上手い演出でシビれる。

ラストのあるものを見つめるシーンで「何も解決には向かっていないけど、なんとかなるような気がした」という感情になった。これは私がサウナに入った後によくなる感情。『はちどり』はサウナだ!

 

ゲド戦記

幼い頃観たジブリ作品を劇場で観るという体験自体が価値……。大きな画面に青色のトトロとスタジオジブリの文字が出た時、なんだか泣きそうになってしまった。

ゲド戦記自体は小学生の頃に一度観たきりで微かな記憶が残っている程度だったけど、実際に観始めたら結構記憶と違っていて、いま改めて観るとこれってすごい作品だったんじゃないか……?と思わされた。「映画は父を殺すためにある」を地で行く展開から、若者の葛藤、死への恐怖と生への執着、世間では失敗作などと言われているが、私は好きだった。みんなジブリ宮崎駿性を求めすぎていたのではないか……?

ゲド戦記の嫌われっぷりはなかなかなもので、同時間帯の他のジブリは満席になっているものもあったのにゲド戦記は普通にチケットが取れた。もっと愛したって……。

 

・ワンダーウォール 劇場版

京大の吉田寮の話。吉田寮問題は知っている上での鑑賞。ドラマ版未鑑賞。

キャストの良さ、キャラ立ちの良さ、ロケーションの良さ、主題の良さ、映像の良さ、様々良い点がありかなり好きな雰囲気が漂っていた。大学生のきったない雑さ、その中に感じる居心地の良さや楽しさをしっかりと描いていてかなり良かった。全自動卓なのに手積みで麻雀してたり、そこでケバブ食べたり。私は本編中ずっと高校の部室の匂いを感じていた。これが青春だよ!

しかし私が吉田寮問題を知っていたからなのか、あともう一歩踏み込んで欲しいと思ってしまった。せっかく創作物としての表現しているのであれば、もっと物語的飛躍をみせてほしかった。あと言葉に頼りすぎかな、とも思った。

1時間ちょっとという短さの中でしっかりとまとまっていてとても好きだった。好きが故にあと一歩、ということです。

若葉竜也はめちゃくちゃに最高だった。成海璃子はかわいい。

 

だめな作品の感想ほど筆は乗る。悲しい性です。でも「なぜだめだったのか」を考えるのは面白いので結果オーライです。ジム・ジャームッシュで好きな作品は『ダウン・バイ・ロー』です。

映画周りの話もなんだか暗い話が多くて滅入ってしまう。いろいろな考えや意思はあるけど「作品に罪はないんだよ」ということだけは声を大にして唱え続けたい。作品自体に対する敬意は忘れないでいたい。映画愛とか関係ない。測れないものを比べないで。

 

あと、私事ですが今月から生活圏が新宿周辺になりました。毎日行かなければならないので、わりとうろうろしてると思います。もし見かけたら声をかけてください。

来月も書ける時世だったら書きます。