今月観た映画

依然として寒いですね。今月劇場で観た映画の感想です。

 

・ブレスレス

面白い!水難事故で亡くした妻の姿を絞首プレイに見出していく、フィンランドから届いた歪な純愛ドラマ。

なんてったって原題が良い。『Dogs Don't Wear Pants』、犬はパンツを履かない。『ほえる犬は噛まない』に次ぐ犬タイトル!犬の意味は違えど!脚本は少々荒削りな部分もあるが、それらが気にならないほど映像が良い。サランラップ長回しカットとラストシーンは映画史に残るべき。特にラスト。素晴らしすぎる。

SMや絞首など不穏な要素が盛りだくさんだが、あくまでそれは要素でしかなく、描いているのは恋が始まる瞬間のキラメキ、つまりはフィンランド流キラキラ映画だ!『フィンランド式残酷ショッピング・ツアー』なんて映画もあったけど、こっちはちゃんと映画をやってるぞ!

読後感もとっても爽やかでかわいく、私はめちゃくちゃ好きな映画でした。ただ一つ欠点を挙げるとするならば、人におすすめしづらい!ネタがきわどい!でも面白い!観て!

 

・ヤクザと家族 The Family

1人のヤクザの一生を3つの時代から見つめるヒューマンドラマ。綾野剛はやっぱりすごい。

全体としてはかなり良いが、終盤からラストにかけてはややテンポが落ちる感じは否めない。時代や世論の変遷を刑務所に入ることで遮断されてしまった男が、周りの過去の友人や大切な人と共通の言語を話せなくなってしまう、という部分では『花束みたいな恋をした』を思い出したり。あとはオノマチが学生役をやってて、もちろんかわいいけど流石に学生は難しいのでは……?と思っていたら「お前老けてんな」という台詞が出てきて笑ってしまった。

しかし画のアプローチが良い。三幕がそれぞれのサイズと撮影方法を執っていて、さすが今村圭介……。撮影部志望として学ぶことが多い作品だった。

 

・すばらしき世界

面白い!人生の大半を刑務所で過ごした役所広司のワンスアゲイン。西川美和の初原作モノにして最高傑作。

とにかくバランス感覚が良い!そしてこれを全国ロードショーでやる意味、それこそがこの作品の本質であり言いたかったことなのではないだろうか。あまり前情報なく観てほしいので、書くのが難しい。

上野駅での待ち合わせシーン、教習所のシーン、スーパーの店長と仲良くなるシーン、パーティーシーン、とにかく一つ一つのシーンが三上と過ごした大切な思い出のように、可愛らしくて愛おしい仕上がりになっている。そしてなんといってもラストシーン、本当にすばらしいよ、胸を打たれたよ。本当にサイコーだよこの世界は。

あとはパンフが素晴らしい!脚本がまるまる載っている!分厚い!読み応えがすごい!これで1000円なんて実質タダも同然よね。買うべし!

 

・春江水暖

またしても中国から化け物が生まれてしまった……。中国第8世代(と言っているのはカイエデュシネマだけらしい)の監督、グー・シャオガンの長編デビュー作。

これと言って作品に内容があるわけではないし、ドラマがあるわけでもない、なのに何故か惹きつけられる魅力がこの映画にはある。映画のわりと序盤に出てくる10分53秒の水泳長回しシーンは白眉。劇的なことが起こるのかと思ったら、ただただ愛おしい時間がそこにある、ということだけを描くための長回し。なんて豊かなんだろう。学校で「ドラマを作れ!」と怒鳴られているのが馬鹿馬鹿しく感じるほどだ。

とにかく画面が美しく、静かなシーンを重ねて感情を丁寧に表現する、私はこの作品を観ている間、美術館のことを思い出していた。美術館へ行った時のあの感覚、あれを再現できる映画だ。順路を左から右へと進んでいき、そろそろ終わってしまうのか、と少しのさみしさを抱えながら静かに歩みを進める、最後の画をじっくりと目に焼きつけたら、出口付近には「第一章 終わり」の文字。『春河水暖』の会期はまだ続くようだ。

 

・ベイビーティー

私の昨年のベスト映画、『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』の三女、ベス役を演じたエリザ・スカンレン主演作。病を抱える女の子と不良のラブストーリー。

あらすじを見る限り、言ってしまえば何回も観てきたタイプのいわゆる難病モノだが、本編はしっかりとアートっぽくもありつつ、いかに今までの難病モノにならないようにするかを大事にしていて、そっち方面のあざとさを感じさせない作りになっていた。

「死」というものを描くことで「生」を描くのではなく、「死」が隣にあるからこその「生」を思い切り楽しむ、メメント・モリの映画だった。こんなにも鮮やかで儚く美しい死と生の描き方があったかよ。

ラストシーンも良い。あの素敵なビーチが灰色の空なのも良い。ピンクのエンドロールも良い。かなり好きな映画でした。

 

・あの頃。

実質山下敦弘だ!劔樹人のエッセイ原作を今泉力哉が監督した本作。仲野太賀が『すばらしき世界』に続き素晴らしい。

いわゆるホモソーシャルな内輪ノリにウッとなる部分もあるが、彼らのその瞬間のキラメキや救いなどを丁寧に描きつつも、引きの長回しでそれらを俯瞰して見ているような視点で、とにかく良い距離感だった。

私もアイドルは接触とかは行かないけどライブは観に行くくらいに好きであり、擬似恋愛対象ではなく、彼女たちを表現の一端やチームとして応援するんだ!というあの気持ちにとても共感できた。

それにしても仲野太賀。最初にも言ったけど仲野太賀。凄すぎる。日本の宝ですよ、もう、ほんとに。悲しみや苦しみを吹き飛ばすために虚勢のように明るく振る舞い、高らかに周りに毒を吐く、あの瞳の演技は堪らないものがあった。仲野太賀。

 

・あのこは貴族

素晴らしい!門脇麦水原希子のダブル主演による、今観るべきシスターフッド。誰も否定しないが、すべての人に向けられた課題。

ほんともう蹴落とし合いとか啀み合いとかいらないよね!問題の原因を他者に求めてしまうのはきっとその方が楽だから。しかしそれをやめると、すべての問題の責任は自分自身に向かうのであって。でもそれは個々人がそれぞれ抱えているのだから、互いに手を取り合っていこうよ!なんていう普遍的な場所への着地、しかし提起された問題は我々に優しく静かにしっとりと重くのしかかってくる。そんな映画。「普通」は全力で築き上げるものなんだということを再確認した。『その夜の侍』でもそんなこと言ってたね。

しかしこの映画はとにかく画が美しい。いわゆる上流階級の話だったりもするので、静かなシーンが多いのだが、それがジメジメではなくあくまでしっとり。あれってどうすればああやって撮れるんだ。美術もカラグレも最高。

雨の東京って画になるね。私も傘をさして東京を歩きたくなった。やっぱり田舎者だから、あからさまに東京っぽいところにはテンションが上がってしまう。自転車2人乗りのシーンで私は号泣しました。観るべし!

 

 

今月は傑作が揃っていました。というか邦画が強い。

3月はいよいよ撮影に入っていきます。楽しみだ。また、観たい映画も続々と公開になっていくので、何本観られるかな、合間を縫ってなんとか観にいきたい。