今月観た映画

暖かくなってきましたね。

今月劇場で観た映画の感想です。

 

・野球少女

面白い!韓国高校野球で「天才野球少女」と括られ、しかしプロテストは「女子」ということで受けられない主人公スインの、性別の話だけど性別の関係ない人間同士の話。

韓国における部活動はプロになる人しか入らないものらしく、その中で「なれないよ」と言われながらもそれを跳ね除けてひたすらにボールを投げ続けるスインの姿にはグッとくる。そしてその無垢さにだんだん周りの人間たちが「天才野球少女」としてではなく「選手」として接していくのも爽やか。ストーリーだけ見ればスポ根っぽいが、映画自体はとても静かで、引きの韓国映画の良さが存分に出ている。

『あのこは貴族』でも感じたけど、近年のシスターフッドとか女性性の抑圧を題材にした作品への「共感はできるけど、現実の構造的には私も男性であって加害側なんだよな」というモヤモヤと、それ故にその作品への言及がやや憚られる(してたが)感じが、性別の話だけど性別の関係ない人間同士の話として描くことによってなくなっていた。あくまで個人的な意見だが、こうなってくれることはとても嬉しいというか、これこそが差別なき世界だと考えているので、その語り口にはグッとくるものがあった。

 

ビバリウム

おんなじ家がずっと続く変な街に閉じ込められてしまったカップルの話。ルネ・マグリットエドワード・ホッパーの映像化。同じ景色が永遠に続くフラクタルの怖さを存分に感じられる。開けた閉所!宇宙か!

観ている間に『マザー!』をずっと思い出していて、また旧約聖書の話だ!と思っていたら、誰も旧約聖書への言及はしておらずしょんぼりした。

『ヘレディタリー/継承』あたりから始まった公式サイトに解説をつけてあたかもそれが正解ですみたいな面するの本当にやめてほしい。ホラーは答えなんて出しちゃダメなジャンルだと思っているので……。

エンドロールに大音量でXTCがかかるの良かった。XTC大好きです。

 

・まともじゃないのは君も一緒

面白い!恋愛経験ゼロの清原果耶とコミニュケーション能力ゼロの成田凌スクリューボールブコメ成田凌の凄みを見た。

劇中めちゃくちゃ歩く!ロケに横浜を使っていて、知ってる景色を清原果耶と成田凌が歩いていて面白かった。いわゆる「普通」の価値観って何?という問いを突き付けながら「普通」を生きる人たちを否定せずに自分なりの答えを出す部分はとても爽やか。現代の日本を舞台にここまで笑えるスクリューボールブコメはめちゃくちゃ貴重なのでは。

清原果耶の様々な服装が見られて楽しい。成田凌が立ってるだけでめちゃくちゃ面白いカットもあったりして、演者陣の力がすごい。あとは終わりかた!おわり!最高!

 

・ミナリ

アメリカで生きる韓国系移民の家族の話。

とにかくおばあちゃんが良い。孫を無条件に愛し、空気を読まずにガンガン言うおばあちゃんがその場の空間を支配するあの感じがとてもリアル。身の回りの状況を選択できない子供たちが、大丈夫な顔の奥に戸惑いを見せる瞬間が何度もあり、胸が苦しくなった。しかし弟のデイヴィッドがしっかりと成長していく様を見られたのでよかった。

基本的に不幸しか起こらないのに、なんとなく飄々としていて、ラストの最大の不幸なんてもはや希望みたいに見える。バラバラになりかけた家族がまた一つになるきっかけは不幸なのだろうか。最後まで観た後に『ミナリ』というタイトルがじわじわと効いてくる。おすすめ!

 

・夏時間

大傑作!とにかく劇中涙が止まらなかった。『ミナリ』で語られなかったお姉ちゃんの話。

夏休みも終盤になり、普段遊んでる友達もどこかへ旅行へ行ってしまい、休み自体に飽きてきて、でもまだ宿題はたくさん残っていて、というようなあの頃の感覚をありありと思い出させられる。

家の中ではまあまあままならない事態が展開されていて、子供ながらにこれはままならないぞ、となんとなく分かっていても、空気をあえて読まずにちょけることで場の空気をなんとか軽くしようとするあの感じが切なくていじらしくて涙が出た。喧嘩のシーンもおいおい泣いてしまった。

私は姉のいる弟なので姉弟間のリアルさが生々しすぎて食らってしまった。この間、祖父の葬式があり、家が遠いため葬儀場に泊まったのだが、ほぼ同じ景色がスクリーンに映っていて、「これは私の映画だ!」と思ってしまった。

まだまだ良いところはたくさんあるけど、とにかく大傑作!まだやってるところがあったら急いで観に行って!

 

ノマドランド

炭鉱の閉鎖による強制立ち退きにより、車上生活を余儀なくされた「ノマド」たちの、さみしさと別れについてのドキュメンタリーでありロードムービー

アメリカの雄大な自然に身を委ね、各地で少しずつ働きながら、出会ったノマドたちと触れ合い、様々な景色を見る。それが一瞬羨ましいとさえ思うが、彼/彼女らは筆舌に尽くしがたい孤独と喪失感や辛さを抱えていて、さらにスクリーンに映るノマドたちのほとんどは本物というところに、日本で過ごしている私には分かり得ない感情があるのだろうな、と自分の不勉強と世界の狭さを呪ったり。

拠り所を与えてくれる人たちはいるのに、主人公のフェーンは別れを永遠にしないために道路を走り続ける。「この生活にはさよならがない。またどこかで会える」というセリフに全てが詰まっている。「重なる一瞬の日々に輝く一瞬の火花/共に眺め心震わせようじゃないか」という詩を思い出したり。

全てを肯定した先にある社会派映画でありながら、ドキュメンタリーでもあり、ロードムービーでもあり、しかし老人たちの青春ムービーでもある、かなり多面的な観方ができる、静寂の中に確固たる芯のある強い映画だった。傑作です。

 

モンスターハンター

ポール・W・S・アンダーソンは最高!久々のミラ・ジョボヴィッチ。最高のホームビデオ。

今作の手法は完全に10年前の映画で止まっている。スローモーション多用!飛び出す3D!早いカット!ド派手CG!

でかいモンスターパニックに始まり、群体モンスターパニックになり、またでかいモンスターパニックで終わる。しかしそのひとつひとつのパニックがちゃんと絡み合っている!しかしながら完全に官能的な映画!ただただ気持ちいい!ストーリーなんてほぼない!ただただ戦う!それだけ!ファーストカット山崎紘菜で最高!トニー・ジャーかわいくて最高!最高最高最高!

最寄り駅におおきな商業施設ができて、部活が休みの日に大作アクションを観に行っていた中学生の頃を思い出して、意味のわからない涙が出てしまった。これは完全に我々世代のノスタルジー映画。この世で一番面白い。映画って結局こういうのが良いんだよ!

通常上映で観たら絶対面白くないと思ってIMAX3Dで観たけど、完全に大正解でした。飛び出す3Dは人のテンションを上げる力がある。

 

3月は本数観られないかもと思っていたが、わりと観られた。よかった。今月の映画は強かった。

映画制作も佳境に入ってきて、だいぶ大変だけど、大変であればあるほど楽しい。演者さんがみんないい人。本当に良かった。まだあと1日撮影が残っているのでラストスパート頑張りたい。