今月観た映画

暑くなってきましたね。今月劇場で観た映画の感想です。

 

・ラブ・セカンド・サイト はじまりは初恋のおわりから

倦怠カップルの男性が別世界線に飛ばされて、もう一度恋をやり直すラブコメ

オープニングが素晴らしい。初めて会った日から付き合って、デートをして、結婚して、家を買って、夢を叶えて、夢を諦めて、それでも生活は続いて、限界ギリギリになるまでをものの数分でテンポ良く描いてゆく。ここがとんでもなく楽しい。

自分の夢を取るか、最愛の人を取るか、という天秤に悩むのは、パラレルワールドというSF要素がありつつも古典的なジレンマであり、人を選ばずに楽しく観られると思う。

ただSF好きとしてはもうちょっとSF要素を入れて欲しかった……!自分の頭の中でSFを織り混ぜて予想していた展開の方が面白くなってしまうという、かなり観客としては恥ずかしい感じになってしまった。好きな題材が故にハードルを上げすぎた。

とはいえとても面白くてサクッと観られる1本だった。こういう映画は年に数本観たい。

 

・ジェントルメン

面白い!けど人に勧められるかと言われたらかなり微妙!

ガイ・リッチー初期作を現代でしっかりと撮った!としか言いようのない映画。というか『スナッチ』でしかない。あんなにしっかりとしたオープニングが入る映画、今時観られないよ!

激シブなイケオジたちの騙し合い殺し合いを酷いジョークと共に2時間たっぷり楽しめる。しっかりと二塁打を打ってきている。

キングスマン』みたいな映画だと思ったらわりとガッカリしてしまうので気をつけて!でも面白いよ!ガイ・リッチーが好きな人は是非。

 

・14歳の栞

埼玉の中学2年生のとあるクラス全員に密着したドキュメンタリー。題材が面白すぎるのでしっかりと楽しく観られる。

14歳という大人ぶった子供であり子供の姿をした大人たちのあれが好き、これが嫌い、あいつがうるさい、あの人が大好き、毎日楽しい、自分が嫌い、それぞれの矢印がこんがらがった、まさにクラスという「社会」を観られる1本。面白くないわけがない。自転車でイオンモールにデートに行ってサーティーワンを食べるし、球技大会に負けて泣くし、バレンタインに友達に背中を押されてチョコを渡して逃げるし、お礼はなにを渡せばいいか悩むし、その悩みに対して文句を言う。全部見たことある。記憶のふた開きまくり。

ただオープニングの必要性が全く感じられない!というかオチを最初に言ってしまっている感が大アリで非常に残念。

題材の面白さに制作側が甘えてしまっている感じがして、面白いけどドキュメンタリー映画としてはどうなん、と思ってしまった。

実在するクラスに密着しているだけあって、作中に「SNSで個人を攻撃するような発言は絶対にしないでください」という注意が何度も出てくることに、現代のネットリテラシーのあれこれを考えて悲しくなったりもした。みんな絶対に幸せに生きてくれ!

 

・約束の宇宙

面白い!宇宙飛行士に選ばれたシングルマザーが宇宙へ飛び立つまでを描いた作品。

実際の訓練施設で撮影しているらしく、宇宙飛行士はこんな訓練をするのか、という学びがある。

しかし作中で描いているのは真っ直ぐな母娘の人間ドラマ。自分の夢を叶えるために、幼い一人娘を地球に置いて飛び立つという母の心情をとても静かかつ丁寧に描いている。

ラストの展開はかなり賛否が分かれるものだし、私も観ている時はえぇ……と思ったが、それは作品にのめり込んでいたからだろう。それほど没入感が高く、上質な作品だった。

そしてエンドロール!これはベストエンドロールオブザイヤーにノミネートです!作中で一番泣きました。

画も綺麗でしっかり面白い作品。おすすめです。

 

・くれなずめ

松居大悟最新作。ゴジゲンの舞台の映画化。結婚式の二次会へ行くまでの数時間を描いた作品。

この作品はわりと大仕掛けがあるのだが、そのネタばらしを開始10分で明かしてしまう。それがその後の展開にどう絡んでくるのかという部分はワクワクさせられたし面白かった。作品内で行われる"2回目"は涙なしには観られない白眉なシーンだった。

しかしどうだ!これはちょっといただけないぞ!演劇の映画化という部分で明確に失敗していると感じた。

演劇は物理的な舞台を変えることはできない=その舞台の背景(ヌケ)は観客の想像力に頼っているものだが、映像という媒体は背景(ヌケ)が絶対に存在してしまうものであり、それ故に演劇ではシームレスで突飛な場面転換が可能だが、それをそのまま映画でやってしまうと本当に突飛な場面転換しただけになってしまう。ここが絶妙にテンポを崩していて、観ていてなかなかキツいものがあった。

また、回収したようでしきれていない様々な要素、『アイスと雨音』を引きずりすぎなカメラ、いろいろなところが少しずつハズレていて、最終的にかなり辛かった。

好きなシーンはなくもないし、松居大悟好きだからこそとても残念。とにかく惜しい!

 

・ファーザー

面白い!とにかく完璧な映画。『くれなずめ』ができなかったあれこれを全て成功させている。本当に全てが成功していて、もはや言うことなし!とにかく観てほしい1本。

アカデミー賞の時「チャドウィック・ボーズマンに受賞させたってよ!」と思っていたが、納得。アンソニー・ホプキンスの凄まじい説得力。これがちゃんと評価される世界でよかった。

内容も完璧。演劇の戯曲を元にした脚本だが、完全に映画化に成功している。アルツハイマーに蝕まれてゆく老人の戸惑いや悲しみ、恐怖をしっかりと追体験できる。

私の祖父は最後の方は完全にボケてしまっていて、今現在祖母もボケてしまっている。幸せなことにどちらもボケてゆくほど穏やかになっているので、辛い思いはしていないが、彼/彼女はこんな風に世界が見えているのか、と思うと心がちぎれそうになってしまった。

こんなご時世でなかなか祖父母に会いに行けていないが、なるべくたくさん会っておきたいと思った。

 

・茜色に焼かれる

最悪の映画。設定も脚本も演出も展開もテーマも全てが最悪。最悪の見本市。括弧付きの「おじさん」達が無菌室で作った不幸ポルノ。こんな映画なんか作る前に目の前の現状に対してしっかりと向き合うべき。

監督はコロナ禍における現代日本の閉塞感をリアルに描いているつもりらしいが、会った瞬間マスクを外す、怒鳴り声を上げるためにマスクを外す、最終的にはマスクをしている人なんて1人も出てこない。制作側が俳優陣の表情を撮りたいがばかりに日本の現状を完全に無視して、登場人物の不幸のために都合よく新型コロナをおもちゃのように取り扱っているだけ。本当にロケしたのか?全部CGなのか?外に出て何を見たんだ?

そこに酷すぎる脚本が乗っかってくる。リアルさなんてひとつもない活字のような説明台詞とくどすぎるぺらぺらのテロップ。説明しかしていないから、感情移入なんて出来るわけがない。「母ちゃんが勝負をかける時は赤色をワンポイント差し込んでくる」なんて母に向かって言う中学生いるだろうか?こんな喋り方をする人間いるだろうか?この映画自体が全て演劇でした!という『劇場』みたいなオチだったらまだしも、これを現実だとして扱っているなら、一体制作陣はどの世界線を生きているのだろうか?地元エキサイト翻訳か?

そして散々ステレオタイプな不幸をお店広げして、最終的に到達するのは、アングラ演劇をバカにしつつ、ぺらっぺらの「暴力には暴力!」と「母は強し!」と「色々あるけど、頑張っていこうや!」でしかない。なんなんだよ。ふざけるな。演者陣に同情する。本当にやりたかったのかこの映画を?本心か?この作品内で描こうとしてるハラスメントと同じように、大金を積まれたから受けただけの映画なんじゃないのか?私はこんな映画に出てる俳優達を観たくない。

インスタントな不幸とインスタントな断罪とインスタントな昇華の薄っぺらい作品がこんなにも高評価をされているということに、現代日本がいかに権威主義で保守的かつ後進的かが裏付けられている。仮に人間を強者/弱者として分けるのであれば、この映画は完全に強者が弱者の生活を知らずに「弱者の生活はこんなにも辛いよね、わかるよ〜」と寄り添った気になりながら弱者に対して暴力を振るっているというとんだ勘違い映画だ。そりゃ分断も無くならないよ。

結論として、こんな映画作るな!全てにおいて失礼。こんな酷い映画が「社会派」としてまかり通っている今の日本映画界は「おじさん」たちに支配された絶望しかない世界です。私が実際に見てきた映画界に残ってるクソみたいなおじさん達の煮凝りみたいな映画。あいつらが総動員して作ったんじゃないのか?揃いも揃っておじさん達はこんな思想なのか?我々はこういう映画界に蔓延るクソみたいなおじさん達をぶちのめす為に映画を作る。絶対に許さない。

 

 

だいぶ声を荒げてしまったが、ダメだと思ったものはちゃんとダメだと言いたい。『くれなずめ』にもちょっとイライラしていたけど、『茜色に焼かれる』に比べたら何億倍もまともな映画だった。ここまで明確な怒りとそれによる私のやるべきことを改めて思い出させてくれた点においては、観る価値のある映画だったのかもしれない。でもあんな映画観るくらいなら『ファーザー』を観てください。当たり前のことですが、良い映画はこの世に沢山あります。そして、映画界にはクソみたいな人たちが蔓延っていますが、素晴らしい人も沢山います。むしろ素晴らしい人たちの方が多いです。それだけは確実に言えることです。だからどうか映画を観てください。お願いします。