実録!ドキュメンタリー映画3選

事実は小説より奇なり。創作物みたいな現実を過ごしている今観たいドキュメンタリー3選です。

ネットレンタルや配信等、なにかしら家で観られます。 

 

・消えた16mmフィルム

Netflixオリジナル作品。1992年のシンガポール、当時設立されたばかりの映画学校に通う少年少女が、初期衝動だけを頼りに『シャーカーズ』という映画を撮る。しかし、それを撮り終えた後、一緒に映画を作り、自分たちに映画のなんたるかを教えてくれた師匠が、『シャーカーズ』のフィルムを持って消息を絶ってしまう。それから20年以上の時が経った時、突然そのフィルムが戻ってくる。そのフィルムを観かえしながら、当時なにがあったのかを探っていく……。

題材からかなり興味を惹かれるが、注目してほしいのは92年のシンガポールがありのまま写されているところだ。92年のシンガポールにおけるポップカルチャーの在り方、当時の若者たちの暮らし、その空間を生きたことがないのにノスタルジーを感じてしまう。

この映画はドキュメンタリーの形式をとっているが、観ている間に様々な形へと変化していく。シンガポールの若者たちの青春群像、師匠の自意識と人生、青春を過ぎた女性たちの物語、そして何よりも、この映画が公開されることにより、シンガポールの少年少女が作った粗削りな自主制作映画が、20年以上の時を超えて全世界の人々が観る作品となった。という『シャーカーズ』が主人公の壮大な物語に立ち会うことができる。

10代を過ごした人全員に観てほしい作品。自分のがむしゃらだったころがありありと思い起こされるだろう。

 

監督失格

2005年に急死したAV女優、林由美香と、彼女と不倫関係にあったAV監督、平野勝之を題材にしたドキュメンタリー。

映画前半は1996年、監督と由美香さんが東京から北海道の礼文島まで自転車旅をするロードムービー。疲れや愚痴、ヤケ酒に嘔吐、喧嘩と仲直り、これが売り出されたのか……と思わされる、至極個人的で甘い蜜月を記録した、とても生々しい映像だ。このロードムービーの撮影後、2人は別れるが、その後も良き友人として関係を続け、監督は由美香さんの姿を写し続ける。

そして2005年の由美香さんの誕生日前日、監督は由美香さんのお母さんとともに由美香さんの遺体の第一発見者となる。この時もカメラは回っている。そう、この映画は、自分のかつての恋人、また、自分の娘の死を目の当たりにする瞬間がカメラに収められているのだ。

前半と後半で、それぞれむせ返るほどの生々しい「生」と「死」を見せる。

「こんな匂いしてたらもうだめだよ」という言葉を由美香さんのお母さんが叫ぶが、私も諸事情により人の死臭を嗅いだことがあり、その時のツンとした匂いが蘇ってきて辛くなった。

監督は由美香さんが亡くなった後、何年もの間、何も手につかなくなってしまい、由美香さんとの作品や記録を一本の映画にまとめることで、彼女への思いや記憶を浄化しようとする、再生への物語となっていく。

そもそも不倫が褒められたものではないし、その生々しさから、正直かなり体力を使う作品だが、これほどまでに「誰かの人生を垣間見る」ことのできるものはないと思う。

 

・港町

想田和弘監督の観察映画シリーズ。岡山県牛窓という港町の漁師のおじいさんに声をかけるところからこのドキュメンタリーは始まり、そこからどんどん牛窓の人々の生活内部へと入ってゆく。

説明がしづらい映画なので是非観て欲しいのだが、はじまりは魚を捕るところから始まり、そこでの生活を経由し、病院、墓地へと向かってゆく。生きているものや、生きる行為を撮っている間に、死や忘却へとたどり着く。これが演出ではなく、ある一人のおばあさんによって導かれるという、奇跡のような映画になっている。途中1か所、かなり笑えるシーンがあるのだが、これもかなりの奇跡によって撮られている。奇跡を目の当たりにしよう。

この映画はモノクロで撮られており、それゆえなのか、どこか実在しない町を見ているような感覚に陥る。しかし、ラストシーンで「この町も自分の住んでいる世界に確かに存在しているんだ」と強く思わされる。

想田監督の最新作『精神0』は、現在「仮設の映画館」で観られるので、気になったら是非観てほしい。映画館と配給会社への募金にもなるよ。

 

ほかにも『白昼の誘拐劇』とか『太陽の下で』とか、好きなのたくさんあります。

仮設の映画館で観られなかったドキュメンタリーたくさんやるの嬉しい。『プリズン・サークル』絶対に観る。

激震!ホラー映画3選

個人的にめちゃくちゃ怖かった、ひとひねりあるホラー映画3選です。

ネットレンタルや配信等、なにかしら家で観られます。

 

・ゴーストランドの惨劇

シンプルめちゃくちゃ面白い。あまりあらすじなども言いたくないタイプの映画なので、とにかくさらの状態で観てほしい。

ジャンルホラーとしてしっかりと面白いのに、誰にでも通じるメッセージをちゃんと描きつつ、押し付けがましくないという、優れたバランス感覚。本編が始まってすぐ怖くて、さらに怖い展開があった後に、しっかりと物語にケリをつけつつ、観賞後の感想戦が盛り上がる要素や批評性も持っている。

今作の監督、パスカル・ロジェ監督はハネケをめちゃくちゃ嫌っていて、私もハネケはあまり好きではないのでここまで面白く感じられたのかもしれない。苦手なものが一緒の方が気が合う、みたいな趣味の悪いグルーヴを勝手に感じてテンションが上がってしまった。

 

・バーバリアン怪奇映画特殊音響効果製作所

動物映画を主とする音響効果技師のおじさんが騙され、劣悪な環境でホラー映画の効果音を作ることに。嫌々ながら仕事をうちにだんだんと精神が蝕まれてゆき……、という話。

言ってしまえばこの映画でグロかったり怖かったりすることはひとつも起こらない。グロかったり怖かったりする音だけをひたすら聞かさせるのだ。観終わったころにはかなり嫌な疲れがどっと出る。観客を攻撃するタイプの映画だ。

しかし、音効さんの仕事がよくわかるお仕事ムービーでもある。「人の首がねじ切れる音ってこうやって作ってるんだ!」みたいな学びをたくさん得られ、次に観るホラー映画では展開よりも効果音が気になってしまうこと間違いなしだ。

 

霊的ボリシェヴィキ

廃工場のような場所に集められた7人が、自分の恐怖体験を話すことによって「あの世を呼び出す」実験を行う……。という話。

今まで観てきたホラー映画とは明らかに違うアプローチで「恐怖」というものを表現している。観ている間、自分もそこに立ち会っているかのような緊張感と怖い話を「観る」のではく「聴く」ことで、怖さがどんどん増幅されてゆく。

映画自体は低予算だが、その歪さや妙なリアリティ、突飛な展開など、全てが相まって、かなり不気味な雰囲気を醸し出す。話される恐怖体験も、日常の延長線上にあるような少し不思議な話、くらいのスケールが淡々と語られるので怖い。

いわゆる「ホラー映画」が好きな人には物足りないかもしれないが、「怖いもの」や「怖いという感情」自体に興味のある人は確実にハマると思う。

 

 

ホラー映画で他になにかおすすめあったら教えてください。めっぽう怖がりなので観るかどうかはわかりませんが……。

えずくぞ!泣ける映画3選 洋画編

すぐ泣く私が横隔膜に泣き癖をつけるくらい泣いた洋画3選です。

ネットレンタルや配信等、なにかしら家で観られます。 

 

ブリグズビー・ベア

地上は汚染され、人間は地下に暮らさなくてはならない状況下、主人公ジェームズの唯一の楽しみは毎週VHSで送られてくる教育番組『ブリグズビー・ベア』だけ。しかしある日、両親が突然警察により逮捕。両親だと思っていた人物は実は誘拐犯で、今までの生活は全て嘘だったということが判明する。

地上に戻り、本当の家族のもとに帰ったジェームズは『ブリグズビー・ベア』の新作を観たがるが、番組は偽の父親が自主制作で作っていたものだった。ジェームズは更新されることのない『ブリグズビー・ベア』の続きを自分で撮ることを決心するが……。という話。

誘拐や嘘など、物騒なワードが飛び交うあらすじになってしまったが、この映画に悪い人はひとりも出てこない。実社会から隔離されていた青年が、そのピュアさにより周りの人を巻き込み、ひとつのものを作り上げるという、自分の(本人がそう思っているかはわからないが)トラウマや欠点を、創作により昇華する、かつ、今まで主人公の生きていた世界観は全て偽の両親によって作られていたもの=親の管理下に置かれていた、という状況から離れ、しかし親のルーツを引き継いだ上で自分にしか作れないものを作るという、本当の意味における「自立」を、ひとつのストーリーラインで描いている傑作である。

どんな規模であれ、なにかを作ったことのある人、ジェームズにおける『ブリグズビー・ベア』を持っている人は、是が非でも観てほしい1本だ。

 

・ぼくとアールと彼女のさよなら

名作映画のパロディ映像を撮るのが趣味の冴えない主人公グレッグは高校でも浮いた存在。周りと馴染めないのではなく、自ら馴染もうとせず、高校は「やり過ごすもの」として生きている。ある日、親同士の仲が良いだけで、ほとんど交流のない女の子レイチェルが白血病を患ったため、母親の命令により話し相手になるハメになってしまう……。という話。

一見お涙頂戴難病モノに見えるが、この映画は病気というものをわりと状況としてしか描いていないように感じる。ひねくれきってねじ曲がった主人公のグレッグが、シニカルなジョークを言いながらただ日常を過ごす、そこに死にかけの女の子が加わる、ただそれだけの映画なのだ。

若者の描き方もかなり現代っぽく、病気に対する「どこか他人事感」がしっかりと描かれているので、かなりリアルな体験になるだろう。しかし、だからこそ、あたたかさや優しさがより一層伝わってくる。

また、途中にちょこちょこ出てくる映画パロディがかなりくだらなくて良い。これらのパロディを撮りたいくらい。

私はこの映画に思い入れがありすぎて、とにかく観てほしい作品。観た人の心に何かしら深く鋭角に突き刺さるはずだ。

 

・アマンダと僕

 パリでアパート管理の傍ら便利屋さんとして働いている青年ダヴィットは、新たにアパートに越してきた女性レナと恋に落ちる。そんな幸せな日々を過ごしている中、突然起きたテロにより、仲の良かった姉を亡くす。ひどく悲しむダヴィットは、事故によって身寄りをなくしてしまった姪、アマンダを引き受けることにする……。という話。

こういう「誰かの人生を少しの間だけ共にする」感覚を得るために映画を観ているんだよな、と改めて感じさせる作品だ。

悲劇が起こる前までのなんてことない日常の小さな(しかしとても愛おしい)出来事、悲劇が起こった後も普通に流れてゆく世間、その時に周りにいてくれる友人や恋人、それらすべてが丁寧に描かれている。

私の実体験として、悲しいことが起こった後も意外と普通でいられる自分に気づくことがよくある。しかし、ふとした言葉や風景で、忘れていた(忘れていようとした)感情がぶわっと蘇って、人目がある場所でもぼろぼろ泣いてしまうこともたまにある。この映画は、一度でもそんなことがあった人を優しく包み込んでくれるような映画だ。

ラストシーンは"ずるい!"とすら思わせる、名シーンだ。時々思い出しては泣きそうになるほど、大好きで、大切な1本だ。

監督の前作『サマーフィーリング』も併せて是非観てほしい。これが好きだった人は必ず気に入るだろう。マック・デマルコが突然出てきてびっくりしたりもする。

 

邦画編とおなじく「主人公が映画を撮る」という偏りを見せた。弱いジャンルというものが浮き彫りにされて、わりと恥ずかしい。自分でやってるのに。

えずくぞ!泣ける映画3選 邦画編

基本的になんでもすぐに泣くタイプの私が横隔膜に泣き癖をつけるほど泣いた邦画3選です。

ネットレンタルや配信等、なにかしら家で観られます。

 

・鈴木家の嘘

ある日、ひきこもりの兄が自殺。それを見た母は意識と少しの記憶を失い入院。しばらくして意識を取り戻した母に、家族は「兄は引きこもりを脱してアルゼンチンで働いている」と嘘をつく。そこから家族ぐるみで母に兄の死を悟られないようにするが……という話。

本作はコメディタッチの映画であり、設定の突飛さも相まって、かなり可笑しくて笑える作品である。しかし、身内の突然の死を受け入れきれない家族一人一人が、少しずつ死を受け入れてゆく様をとても丁寧に描いていて、側から見れば滑稽な状況も、本人たちにとっては大真面目であって、死というものに本人たちなりに向き合い、理解するために必要な過程なんだろうな、と思わされる。

父親役の岸部一徳が良い。テーマが少し重なるところもあって『俺の屍を越えてゆけ』シリーズのCMを思い出す。これはかなり良いCMなので、今作と併せて是非観ていただきたい。

扱うのが難しいであろう重いテーマを絶妙なバランス感覚で描けているのは、やはり監督の実体験が元となっているからだろうか。観終わった後はとても爽やかな気持ちになる、とてもいい映画だ。

 

・Every Day

 主演の永野宗典が好きで、何とはなしに観てみたらとんでもなく食らってしまった1本。

事故で昏睡状態のはずの恋人が突然目の前に現れ「1週間時間をもらった」と主人公に告げ、いつものようにお弁当を渡してくる。その状況に困惑しながらも、主人公はその1週間を過ごす。という話。

日常のふとした言葉のやり取りや、周りにいる人の大切さを、そっと教えてくれる作品。内容はよくあるようなものだが、淡々とタイムリミット(のようなもの)を過ごしていく様子に涙腺を刺激される。

「ちゃんとお別れしないと、また会えないですから。」という台詞がここまで沁みる作品はそう無いと思う。

"あたりまえ"をあたりまえと考えてしまう我々に、あたりまえの幸せさを思い出させてくれる。ラストシーンは心がちぎれそうになってしまうが、とても強い気持ちを受け取ることができる。観てほしい!

 

・走れ、絶望に追いつかれない速さで

私が初めて観た中川龍太郎監督作品、また、監督を大好きになるきっかけとなった作品。

 一緒に上京して同居までしていた親友が突然自殺した。親友が最期に描いた絵のモデルの女性に彼の死を告げるべく、彼女のもとへ向かう、という話。

なんといっても、この映画には映画界に残るべき食事シーンがある。人がご飯を食べているだけなのに、こんなにも心に迫ることができるのか……と思わされる。どんなにつらいことがあったって、悲しいかなお腹はすくし、食べないと死ぬ。生きることは食べることなんだなぁ、と改めて実感する。

親友が居なくなってしまった後、親友の生きた輪郭をなぞることで、たしかにここにいた、ということをしっかりと認識してゆくのを、丁寧にひとつずつ描いていて、どん詰まりで真っ暗だった主人公がだんだんと光を見出し、最後は希望にあふれた着地をする。やさしい勇気とあたたかな気持ちをくれる、とても美しい作品だ。

 

厳選して3本選んだつもりだったけど、ぜんぶ「死と向き合い受け入れる」というテーマだった。あとは監督の実体験が元になっているものが多かった。私はこれらに弱いんだな、と思った。

舐めるな!子供向け映画3選

みんな家にいる?

劇場で観た映画の感想を書いていたのに、しばらくそんなこともできなくなってしまった。感傷中毒患者である私も禁断症状で映画館に走ろうにも!

テレビもネットも連日気が滅入ることばかりで嫌になってしまう。ので、現実逃避ツールとしてかなり優れている映画を観よう!ということです。

今回はおすすめの子供向け映画を3本紹介。子供向けだからと言って舐めてかかったり、スルーしたりはしないでほしい、とっても面白い3本です。

すべてネットレンタルや配信など、なにかしら家で観られます。

 

 

テラビシアにかける橋

絵の上手い内気ないじめられっ子の少年「ジェス」と、都会から越してきた変わり者の少女「レスリー」が、ターザンロープで飛び越えた小川の向こうの森に二人だけの王国「テラビシア」を作るファンタジー

中盤にびっくりする展開があるので、もし興味があるなら予告編も観ずに本編へと行ってほしい。

子供たちの空想の世界が映画の力によって具現化するのは観ていてとてもワクワクするし、その空想の世界が主人公のいじめに対する箱庭療法のように働き、現実と空想の出来事が並行して進んでいくというストーリーテリングは、古典的ながらも素晴らしい。

劇中の初恋以前のような目線には、ドラマ版『打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?』のような雰囲気も感じさせる。

自分の考え方や生き方が変わるときに隣にいてくれた人のことを思い出す、とても良い作品。

私は小学生の頃にディズニーチャンネルで観て、軽く嗚咽するほど泣き、それ以来ちょこちょこ観返している。いま改めて観ると、軽くどころじゃなく普通に嗚咽する。おそらくこれからも観続けるであろう、大切な1本だ。

 

・劇場版 ドーラといっしょに大冒険

あのドーラが実写になって帰ってきた!夕方、テレ東でやっていた児童向け教育アニメ「ドーラといっしょに大冒険」を観ていた人は絶対に観たほうがいい、原作愛に満ち溢れた最高の実写化。

ストーリーは、探検家の娘として産まれ、ジャングルの奥で生活していた主人公「ドーラ」が、広い世界を見るため、という両親の勧めで、突如ロサンゼルスの高校に行くことに。いままでジャングルで生活していたため、案の定周りとは馴染めず、変わり者扱いをされてしまう。しかしある日、遠足で事件に巻き込まれてしまい、クラスの変わり者4人とジャングルを冒険することに......という感じ。

冒険を通して思春期の悩みや複雑な感情を乗り越えていく様子はティーンエイジャー映画でよく見るが、物語のテンポの良さと、ドーラのキャラの濃さが物語をすごい力で引っ張っていってくれるので、まったく飽きがこない。

王道冒険活劇としてクオリティが高いのに加え、ハイスクール要素や、ぶっ飛んだ演出、無駄に豪華なキャストが相まって、とてもアッパーでハッピーな楽しい作品になっている。エンディングが最高だ。

原作のアニメを知っていると完璧に楽しめるので、ドーラを知らない人は事前にネットなどで下調べしておくといいかもしれない。あの無邪気なドーラがそのまま成長することで、あんなサイコパス性が生まれるなんて……。

そしてなんと言っても、主演のイザベラ・モナーがかわいい!鑑賞後は彼女のファンになること間違いないだろう。

 

・レゴムービー

大本命!これは本当に面白い!

レゴシティに暮らすデフォルト顔の普通のミニフィグ「エメット」が、ひょんなことから世界を救うために奮闘する姿を、全編コマ撮り風の映像で繰り広げる、笑えて、驚かされて、熱くなって、泣ける、完璧な映画。

監督は『くもりときどきミートボール』『21ジャンプストリート』のフィル・ロードクリストファー・ミラー。この時点でピンときた人は今すぐこのページを閉じて本編を観てほしい。

まず映像が素晴らしい。登場人物はもちろん、建物、爆発の煙、シャワーの水まで、すべてがレゴブロックで再現されていて、一目見ただけではCGと分からないくらい作りこまれている。ちなみにエンドロールは本当にコマ撮りで撮っている。

そして次はアクション。レゴという特性を活かして、地形や武器をその都度組み替えて戦うシーンは、ほかの映画ではなかなか観られないと思う。

最後はストーリー。世界を救うヒーローになる!なんて、子供向けの内容だろ、と思ったら大間違い。主人公のエメットは、今までレゴの説明書を読んで生活していた、つまり「マニュアル通りにしか生きていけない」キャラクターなのだ。何物でもなかった自分が、突然何者かになってしまい、その状況に困惑しながらも「自分らしさとは?」という大きな問いに(軽妙なジョークを交えながら)向かっていく、というストーリーだ。これも中盤にびっくりする展開があり、それらが重なり合った先にあるラストシーンは何回観ても鼻の奥がツンとしてしまう。

とにかく、誰が観ても面白い最高の作品。劇中にかかる曲が向こう3日は頭に流れ続けることだろう。情報量が多いので、吹替で観るのがおすすめ!

ちなみに『レゴムービー2』という続編もあって、今作のエンディング直後から話が始まるので、もし気に入ったらぶっ続けで観ても楽しいと思う。

 

 

以上3本。どれもとっても面白くて大好きな映画なので、ぜひ観てほしいです。

まだまだ家にいる生活が続きそうなので、あと何回かこういう感じで書くかもしれません。その時はよろしくお願いします。

もし観てくださった方がいらしたら、ぜひ感想を教えてください。

在宅楽しんでいこ~!

今月観た映画

今月劇場で観た映画の感想です。

 

・ジョン・F・ドノヴァンの死と生

大好きなグザヴィエ・ドラン監督の最新作。だけどすごく「ドランっぽい」のに「ドランっぽくない」映画だった。話自体は面白くて大好きだけど、私が期待値を上げすぎたのだろうか。それとも英語だからなのか……?

逆に言えば初めて観るドラン作品にはもってこいだと思う。いつもの母子モノだし、相変わらず選曲センスは抜群だし、映像もケレン味たっぷりだけどリアルを感じるし、とっても観やすくなっていると感じた。

ルパートが急いで帰ってきて「ヘルサム学園」を観て大興奮するシーンが『Mommy/マミー』のWonderwallのシーンっぽくて良かった。すこし泣いた。『Mommy/マミー』大好きなので皆さん観てください。

 

・弥生、三月 -君を愛した30年-

観やすさ、理解のしやすさ、テンポの良さ、演技の癖の無さはピカイチ。よってなんにも引っかからない流動食みたいな映画に仕上がっていた。

ふわりと始まって、分かりやすいキャラクターの説明、タイトルもパッと出て、ラストまでスイスイ入っていって、エンドロール後に「どうした!!」となった。全ては逆らえない運命の下に動かされていただけなのだろうか……?そんな『ヘレディタリー』みたいな……。そういえば重低音を鳴らして重い空気を表現していたな……。

最初から流動食を求めて観ていた節があった(失礼)ので、エンドロール後に突然お餅を突っ込まれた感じでした。

後ろの女子高生2人組が楽しそうだったので良かった。杉咲花がすぐ死んだ。

 

・コロンバス

フィックス、長回しモダニズム建築、劇伴Hammock、これ以上何がいる?

全てのカットの構図がバチバチにキマっていてずっと楽しめた。フィックス断固支持者にはたまらないものがある。「好きなものの説明をしてほしいのではなくて、何故あなたがこれを好きなのかを知りたい。」そして何故好きかを語り出すシーンがたまらなく美しくてちょっとだけ泣いた。

『わたしは光をにぎっている』『足跡はかき消して』に並ぶ、背景に語らせる映画。私はこういうのが好きなんだな。やっとわかりました。永遠に観ていられる。円盤買ってずっと流していたいなぁ。オープニングやパンフ、作品全体のアートワークもとても素敵で綺麗だった。

それにしても監督、コゴナダって小津好きすぎか!好きだぞそういうの!

 

 

そもそも3月は観たいものが少なかったけど、新型コロナウイルスの影響で延期になった映画が多すぎたし、やっぱりなんとなく怖かったりして、全然観られなかった。『シャドウプレイ』の延期が悲しい。フィルメックスで観ておくべきだったなぁ。あと『スピリッツ・オブ・ジ・エア』を観逃した。

そのかわり(そのかわり?)DVDを買っただけで満足していたやつや録画しただけで満足していたやつを観たりした。『ラブ ゴーゴー』、何度観ても最高だね。

あとは友達にずっと激推しされていた白石晃士監督作品をバキバキ観ている。

家で映画をだらだらと観ていると、やっぱり劇場で観たいなぁ、と思う。でも劇場も閉まっちゃったりしてるもんなぁ。はやくいろいろ終わるといいね。

「アートホラー映画」の歩き方

『ミッドサマー』が話題になっている。

21世紀最恐と言われた『ヘレディタリー/継承』のアリ・アスター監督最新作で、白夜のお祭りが開かれるスウェーデンの田舎で起こる出来事に巻き込まれる若者たちを描いた作品。

今作は宣伝がとても上手く、ホラー色を強調した予告編をSNSで話題にさせ、”カップルで観に行くと別れる”などのセンセーショナルな煽り文句を打ち、いざ公開したらホラー色がほぼ無く、ホラーだと思って観に行った人は盛大な肩透かしを食らったことだろう。評価もはっきりと賛否両論だ。

それもそのはず、これは「ホラー映画」ではなく「アートホラー映画」なんだから。怖くないよ。だって「アートホラー映画」だもん。

 

『ミッドサマー』で「アートホラー映画」に初めて出会い面白いと感じた人が更なる沼へと進むとき、また、つまらないと感じた人がまたこの類の映画に出会ってしまったとき、少しでも面白く感じられるための”3つの約束”をこれからお教えしよう。

・ストーリーはあってないようなもの

・出てくるものはすべてメタファー

・映画なんて観るな

この3つを心に刻んでほしい。

ただ、これはあくまでも私の楽しみ方であり、無限にある楽しみ方のひとつでしかない。あなたが作品から感じた思いや感想に間違いはひとつもないし、誰からも責められることはないということを強く言っておきたい。

 

ここからは上の約束を説明していくが、その前にここで言う「ホラー映画」と「アートホラー映画」の違いと定義づけをしておこう(ちなみに「アートホラー映画」とは、私が勝手に言っているだけであり、そのようなジャンルは検索しても出てこないと思う)。

  「ホラー映画」は恐れるべき対象が作品内に存在し、その存在が主人公を襲ってくるという恐怖感を楽しむ作品だ。

それに対し「アートホラー映画」は恐れるべき対象が主人公に内在しており、それを克服するというものが多い。

『ミッドサマー』を「ホラー映画」的視点で観ると、カルト祭りに巻き込まれちゃった!ワオ!となるが、「アートホラー映画」的視点で観ると、突然身寄りをなくした女性が再び心を預けられる場所を探す物語となる。

つまり外面と内面の違いなのだ。自分の外からやってくる得体のしれないものへの恐怖なのか、自分の中に存在するトラウマや真っ黒な気持ちへの恐怖(それが時として主人公目線から怪物として映る)なのかの違いなのである。

この2つの視点のバランスがうまく取れている映画こそ誰が観ても面白い、良い映画であると私は思っていて、「アートホラー映画」的視点に偏ったことが今作の賛否両論の原因なのであろう。

 

「ホラー映画」と「アートホラー映画」の違いは分かっただろうか。ここから本題の”3つの約束”に入る。

 

・ストーリーはあってないようなもの

「ホラー映画」はいつお化けが出てくるんだろう、などのドキドキや、この人はどうなってしまうのだろう、というハラハラがあるため、観ているだけで面白い。そこに重厚なストーリーが絡んできたら最高だ。

それに対し「アートホラー映画」は、こう言ってしまうとアレだが、基本的に話がつまらない。観客が補完しなければならない部分が多すぎる。しかしこれは敢えて作った余白であり「アートホラー映画」には無くてはならない要素なのだ。そういうものだとして受け入れてほしい。

ではなぜそんな余白を作ったのか?それは次の項で触れる。

 

・出てくるものはすべてメタファー

 「アートホラー映画」にはアイテムがよく出てくる。そのアイテムもよくわからないものが多い。なんでそのよくわからん紋章でモンスターが消えるの?みたいな展開がほとんどだ。しかしこれも作られた余白、作品に入り込む余地なのである。

「アートホラー映画」は内側の恐怖を乗り越えるものであり、観客ひとりひとりのトラウマはそれぞれ違うものだ。敢えて余白を多く取ることで、観客がそれぞれのトラウマをその映画と重ねやすくしているのだ。それぞれのトラウマが、それぞれのアイテムによって浄化されていく。そこに具体的な説明が入ってしまうと観客が蚊帳の外になってしまう可能性がある。だからこそ説明を省き、輪郭をぼやけさせているのだ。

観客がその型にはまりに行くのではなく、映画自体が観客それぞれの形になってくれる。「アートホラー映画」は我々を救ってくれるとても優しい作品たちなのである。

 

 ・映画なんて観るな

 「アートホラー映画」は観客に寄り添ってくれる優しい映画だということが分かった今、「アートホラー映画」を楽しむために一番必要なもの、それは日常生活だ。

上ではトラウマと言ったが、重ねるものは日常のちょっとした嫌なことでもいい。もちろん嫌なことの全くない生活が一番良いかもしれないが、嫌なことには必ず出会ってしまうものだ。ふとした一言をなんとなく引きずってしまったり、あのときああすれば、といったような心のつかえを「アートホラー映画」は取ってくれる。

なので「アートホラー映画」を楽しく観るためには、映画なんて観る暇があったらいろいろな人に会って、いろいろな体験をしなければならない。そこで起こった体験があればあるほど「アートホラー映画」はさまざまな形になり、自分の生活に寄り添ってくれる。私はこの理屈が分かっているのに「アートホラー映画」をまだ楽しめていない。映画なんて観るな!

 

 「アートホラー映画」の鑑賞方法が分かっただろうか。

「アートホラー映画」はいわゆる「考えさせられる映画」ではなく「考える映画」なのだ。無理やりにでも自分と照らし合わせて考えることが楽しい。制作側は全く違うことを描いているかもしれない。意味すらないのかもしれない。でも考えだすとたまらない。そんなジャンルだ。

このジャンルはかわいそうなジャンルでもあり、そのわかりにくさから日本での劇場公開はまずない。1年ぐらい経ってからレンタルショップに並びだす。その際につけられる邦題はB級ホラー好きに目掛けてつけられたトンデモ邦題だったりする。それを期待して観た人にはもちろん刺さらず、駄作として忘れられてゆく。

そんな浮かばれないジャンルを『ミッドサマー』は地上へと運んできてくれた。『ミッドサマー』はかなり分かりやすく普遍的なことを描いているので「アートホラー映画」入門にはもってこいだ。もし『ミッドサマー』を観て、自分と重ね合わせて面白いと思えた人がいたら、これを機に「アートホラー映画」の世界にも足を運んでみてほしい。その道は(とんでもなく)険しいと思うが、その先にきっと面白い作品が待っているはずだ。