今月観た映画

梅雨ですか?今月劇場で観た映画の感想です。

 

・猿楽町で会いましょう

未完成映画予告編大賞の第2回グランプリで制作されたラブストーリー。

駆け出しのカメラマンが被写体をやってる女性と恋に落ちるが……という話だが、わりと想像の範疇を出ない話であったし、社会的な面も今まで言われてきたことまでしか描けていないし、出てくるキャラクター達も『劇場』みたいな東京ごっこをするだけだし、微妙な伏線を微妙に回収するし、なんだか昔観た"そういう映画"の集合体みたいな映画だった。出来が悪いわけではないのだが。

『高崎グラフィティ』の時も思ったが、未完成映画祭の映画はやっぱり予告編が面白すぎるが故に本編で微妙に感じてしまう。

パープルフリンジがずっと出てたのも気になってしまい、話に集中できなかった。主人公がカメラマンだし、オールドレンズとか使ってたのかな?あえてなのであったらあまりいい手ではないと思う。

総じて感想が持ちづらく、結果的に「あんまり面白くない」に着地する映画でした。エンディングの春ねむりは良い。

 

・クルエラ

ディズニー史上最凶と言っても過言ではないヴィラン、クルエラの誕生譚。やっぱりエマ・ストーンはかわいいし、ポール・ウォルター・ハウザーは良い。

完全にヴィヴィアン・ウェストウッドなのにピストルズが一曲もかからないところなど、音楽使いが良いが故に選曲が気になったりもしたが、最終的にとても良い映画だった。

ヴィランの夜明け的な映画におけるヒロイックになりすぎ問題は依然として解決していないが、これはエステラ/クルエラの青春映画としてかなり良くできていたと思う。

まあここまで気になる点ばかり挙げているのは面白かったからであり、面白いが故に気になる点ばかりの話になってしまうこと、往々にしてあるよね!ごみ収集車から出てくるクルエラめちゃくちゃカッコ良かったし、グラムだったよ!ちなみに私はこの映画を機にディズニープラスに加入しました。

 

モータルコンバット

ハイ面白い!ハイ面白い!こんなんこの世で一番面白いやつですよ!

ストーリーなんてない!なんかやばい奴らが来てて人間界がやばい!のでやばい痣を持った奴らが集結!やばい奴らを倒すためにはやばい力が必要らしいのでやばい場所でやばい特訓を開始!そしたらやばい奴らがちょっと早く到着!家族がやばい!仲間がやばい!どうなる!

こんな大味なストーリーを最初から提示されたらもう映像の気持ちよさ100で観られる。感動とか考察とかいらない!バイオレンスによるエクスタシーに全振り!暴力はエンターテイメントの原点にして頂点だということを改めて思わされた。

しかしこんな感じながらもゲームファンに向けたお楽しみがてんこ盛りだ。「FLAWLESS VICTORY」とか笑ってしまったし、ちゃんとフェイタリティしていた。あと廃墟にフェイタリティコマンドが落書きされてたりした。

なんだかんだ言ってゲーム原作の映画作品として数少ない成功作なのではないだろうか……。真田広之がかっこよすぎる。かっこよすぎる真田広之を見るためだけでも価値がある。浅野忠信は目が光ってる。

 

・1秒先の彼女

チェン・ユーシュン最新作。これは『熱帯魚』『ラブ・ゴーゴー』の続編だ!

まず抜群のポップセンス。エビフライのTシャツなんぞや!という感じだ。しかしそのポップでかわいい世界の中に切実さを一滴落とすバランス感覚には毎作唸る。

後半のバスのシーンからはちゃんと作った(失礼)大林宣彦という感じだった。あのロケーションを撮った瞬間勝利確定だ。

なんかもう贔屓目がかなりあるのと、ただただ好きだったということもあり、正直あまり感想を書けない。とにかく観てほしい。好き嫌いはかなり分かれると思うが。

パンフで森直人も書いていたけど、チェン・ユーシュンは本当に恋と交通を描くのが上手い……。軽トラ、船、バイク、と来て、次はバスでしたよ……。

 

・いとみち

面白い!弘前の高校に通う訛りの強い女子高生がメイドカフェでのバイトを通して自分自身を見つめ直していく、爽やかな映画。

津軽弁が本当に強くて最初は聞き取れないくらいだが、観ていくうちにだんだん自分のリスニング能力が上がっていき、実際に弘前へ旅行したような気持ちになる。

主演の駒井蓮がすごく良い。青森出身ということで訛りはネイティブ(私は津軽弁わからないけど)。凛とした佇まいと強い眼差し、しかしへにゃっと笑って、まあとにかくかわいい。少し前にご縁があって少しだけ話したことがあったが、その時は普通に標準語で話していたので、そのギャップにびっくりした。これから絶対売れる。

ジョナゴールドもかわいかった。ああいう子好きです。

 

 

今月はなんとなく時間が合わなくて見逃したのもちらほら。

6月の色々と忙しかったものたちが無事終わり、いよいよ次の制作がはじまる。頑張るぞー。

今月観た映画

暑くなってきましたね。今月劇場で観た映画の感想です。

 

・ラブ・セカンド・サイト はじまりは初恋のおわりから

倦怠カップルの男性が別世界線に飛ばされて、もう一度恋をやり直すラブコメ

オープニングが素晴らしい。初めて会った日から付き合って、デートをして、結婚して、家を買って、夢を叶えて、夢を諦めて、それでも生活は続いて、限界ギリギリになるまでをものの数分でテンポ良く描いてゆく。ここがとんでもなく楽しい。

自分の夢を取るか、最愛の人を取るか、という天秤に悩むのは、パラレルワールドというSF要素がありつつも古典的なジレンマであり、人を選ばずに楽しく観られると思う。

ただSF好きとしてはもうちょっとSF要素を入れて欲しかった……!自分の頭の中でSFを織り混ぜて予想していた展開の方が面白くなってしまうという、かなり観客としては恥ずかしい感じになってしまった。好きな題材が故にハードルを上げすぎた。

とはいえとても面白くてサクッと観られる1本だった。こういう映画は年に数本観たい。

 

・ジェントルメン

面白い!けど人に勧められるかと言われたらかなり微妙!

ガイ・リッチー初期作を現代でしっかりと撮った!としか言いようのない映画。というか『スナッチ』でしかない。あんなにしっかりとしたオープニングが入る映画、今時観られないよ!

激シブなイケオジたちの騙し合い殺し合いを酷いジョークと共に2時間たっぷり楽しめる。しっかりと二塁打を打ってきている。

キングスマン』みたいな映画だと思ったらわりとガッカリしてしまうので気をつけて!でも面白いよ!ガイ・リッチーが好きな人は是非。

 

・14歳の栞

埼玉の中学2年生のとあるクラス全員に密着したドキュメンタリー。題材が面白すぎるのでしっかりと楽しく観られる。

14歳という大人ぶった子供であり子供の姿をした大人たちのあれが好き、これが嫌い、あいつがうるさい、あの人が大好き、毎日楽しい、自分が嫌い、それぞれの矢印がこんがらがった、まさにクラスという「社会」を観られる1本。面白くないわけがない。自転車でイオンモールにデートに行ってサーティーワンを食べるし、球技大会に負けて泣くし、バレンタインに友達に背中を押されてチョコを渡して逃げるし、お礼はなにを渡せばいいか悩むし、その悩みに対して文句を言う。全部見たことある。記憶のふた開きまくり。

ただオープニングの必要性が全く感じられない!というかオチを最初に言ってしまっている感が大アリで非常に残念。

題材の面白さに制作側が甘えてしまっている感じがして、面白いけどドキュメンタリー映画としてはどうなん、と思ってしまった。

実在するクラスに密着しているだけあって、作中に「SNSで個人を攻撃するような発言は絶対にしないでください」という注意が何度も出てくることに、現代のネットリテラシーのあれこれを考えて悲しくなったりもした。みんな絶対に幸せに生きてくれ!

 

・約束の宇宙

面白い!宇宙飛行士に選ばれたシングルマザーが宇宙へ飛び立つまでを描いた作品。

実際の訓練施設で撮影しているらしく、宇宙飛行士はこんな訓練をするのか、という学びがある。

しかし作中で描いているのは真っ直ぐな母娘の人間ドラマ。自分の夢を叶えるために、幼い一人娘を地球に置いて飛び立つという母の心情をとても静かかつ丁寧に描いている。

ラストの展開はかなり賛否が分かれるものだし、私も観ている時はえぇ……と思ったが、それは作品にのめり込んでいたからだろう。それほど没入感が高く、上質な作品だった。

そしてエンドロール!これはベストエンドロールオブザイヤーにノミネートです!作中で一番泣きました。

画も綺麗でしっかり面白い作品。おすすめです。

 

・くれなずめ

松居大悟最新作。ゴジゲンの舞台の映画化。結婚式の二次会へ行くまでの数時間を描いた作品。

この作品はわりと大仕掛けがあるのだが、そのネタばらしを開始10分で明かしてしまう。それがその後の展開にどう絡んでくるのかという部分はワクワクさせられたし面白かった。作品内で行われる"2回目"は涙なしには観られない白眉なシーンだった。

しかしどうだ!これはちょっといただけないぞ!演劇の映画化という部分で明確に失敗していると感じた。

演劇は物理的な舞台を変えることはできない=その舞台の背景(ヌケ)は観客の想像力に頼っているものだが、映像という媒体は背景(ヌケ)が絶対に存在してしまうものであり、それ故に演劇ではシームレスで突飛な場面転換が可能だが、それをそのまま映画でやってしまうと本当に突飛な場面転換しただけになってしまう。ここが絶妙にテンポを崩していて、観ていてなかなかキツいものがあった。

また、回収したようでしきれていない様々な要素、『アイスと雨音』を引きずりすぎなカメラ、いろいろなところが少しずつハズレていて、最終的にかなり辛かった。

好きなシーンはなくもないし、松居大悟好きだからこそとても残念。とにかく惜しい!

 

・ファーザー

面白い!とにかく完璧な映画。『くれなずめ』ができなかったあれこれを全て成功させている。本当に全てが成功していて、もはや言うことなし!とにかく観てほしい1本。

アカデミー賞の時「チャドウィック・ボーズマンに受賞させたってよ!」と思っていたが、納得。アンソニー・ホプキンスの凄まじい説得力。これがちゃんと評価される世界でよかった。

内容も完璧。演劇の戯曲を元にした脚本だが、完全に映画化に成功している。アルツハイマーに蝕まれてゆく老人の戸惑いや悲しみ、恐怖をしっかりと追体験できる。

私の祖父は最後の方は完全にボケてしまっていて、今現在祖母もボケてしまっている。幸せなことにどちらもボケてゆくほど穏やかになっているので、辛い思いはしていないが、彼/彼女はこんな風に世界が見えているのか、と思うと心がちぎれそうになってしまった。

こんなご時世でなかなか祖父母に会いに行けていないが、なるべくたくさん会っておきたいと思った。

 

・茜色に焼かれる

最悪の映画。設定も脚本も演出も展開もテーマも全てが最悪。最悪の見本市。括弧付きの「おじさん」達が無菌室で作った不幸ポルノ。こんな映画なんか作る前に目の前の現状に対してしっかりと向き合うべき。

監督はコロナ禍における現代日本の閉塞感をリアルに描いているつもりらしいが、会った瞬間マスクを外す、怒鳴り声を上げるためにマスクを外す、最終的にはマスクをしている人なんて1人も出てこない。制作側が俳優陣の表情を撮りたいがばかりに日本の現状を完全に無視して、登場人物の不幸のために都合よく新型コロナをおもちゃのように取り扱っているだけ。本当にロケしたのか?全部CGなのか?外に出て何を見たんだ?

そこに酷すぎる脚本が乗っかってくる。リアルさなんてひとつもない活字のような説明台詞とくどすぎるぺらぺらのテロップ。説明しかしていないから、感情移入なんて出来るわけがない。「母ちゃんが勝負をかける時は赤色をワンポイント差し込んでくる」なんて母に向かって言う中学生いるだろうか?こんな喋り方をする人間いるだろうか?この映画自体が全て演劇でした!という『劇場』みたいなオチだったらまだしも、これを現実だとして扱っているなら、一体制作陣はどの世界線を生きているのだろうか?地元エキサイト翻訳か?

そして散々ステレオタイプな不幸をお店広げして、最終的に到達するのは、アングラ演劇をバカにしつつ、ぺらっぺらの「暴力には暴力!」と「母は強し!」と「色々あるけど、頑張っていこうや!」でしかない。なんなんだよ。ふざけるな。演者陣に同情する。本当にやりたかったのかこの映画を?本心か?この作品内で描こうとしてるハラスメントと同じように、大金を積まれたから受けただけの映画なんじゃないのか?私はこんな映画に出てる俳優達を観たくない。

インスタントな不幸とインスタントな断罪とインスタントな昇華の薄っぺらい作品がこんなにも高評価をされているということに、現代日本がいかに権威主義で保守的かつ後進的かが裏付けられている。仮に人間を強者/弱者として分けるのであれば、この映画は完全に強者が弱者の生活を知らずに「弱者の生活はこんなにも辛いよね、わかるよ〜」と寄り添った気になりながら弱者に対して暴力を振るっているというとんだ勘違い映画だ。そりゃ分断も無くならないよ。

結論として、こんな映画作るな!全てにおいて失礼。こんな酷い映画が「社会派」としてまかり通っている今の日本映画界は「おじさん」たちに支配された絶望しかない世界です。私が実際に見てきた映画界に残ってるクソみたいなおじさん達の煮凝りみたいな映画。あいつらが総動員して作ったんじゃないのか?揃いも揃っておじさん達はこんな思想なのか?我々はこういう映画界に蔓延るクソみたいなおじさん達をぶちのめす為に映画を作る。絶対に許さない。

 

 

だいぶ声を荒げてしまったが、ダメだと思ったものはちゃんとダメだと言いたい。『くれなずめ』にもちょっとイライラしていたけど、『茜色に焼かれる』に比べたら何億倍もまともな映画だった。ここまで明確な怒りとそれによる私のやるべきことを改めて思い出させてくれた点においては、観る価値のある映画だったのかもしれない。でもあんな映画観るくらいなら『ファーザー』を観てください。当たり前のことですが、良い映画はこの世に沢山あります。そして、映画界にはクソみたいな人たちが蔓延っていますが、素晴らしい人も沢山います。むしろ素晴らしい人たちの方が多いです。それだけは確実に言えることです。だからどうか映画を観てください。お願いします。

今月観た映画

みなさんお元気ですか?今月劇場で観た映画の感想です。

 

・街の上で

面白い!今泉力哉最新(?)作。完全にキャリアハイを更新していた。

下北沢に暮らす主人公とそれを取り巻く4人の女性の話。街が舞台なのに部屋の中ばかりなのが、私の東京観とぴったり合っていてとても観やすかった。下北沢の映画なのに、街との距離感が絶妙。これが街だよ!

そしてなんと言ってもイハちゃんの家のシーン。17分テーブル横1フィックス長回し!私なんかがやったらぶん殴られてしまう所業をさらりとやってのける今泉力哉の演出力、セリフ回し、邦画の強みが全てここにある。

パンフも読み応えが抜群。マヒトがEND ROLLを歌ってて最高。古川琴音がかわいい。というかみんなかわいい。

観る価値が絶対にある作品。公開も拡大しているので、みんな観るべし!

 

・JUNK HEAD

面白い!監督が独学で7年かけて、ほぼ1人で作り上げたストップモーションアニメ。見た目はゆるくもハードなスチームパンク

クリーチャーの造形良し、ストーリー良し、ヌケ感良し、さまざま完璧!ここから!というところで終わったと思ったら、3部作の1作目ということで、あと2回はこの世界に浸れるという今後の楽しみができた。

エンドロールが怖すぎる。前に座っていた人が「堀がんばりすぎやろ!堀がんばりすぎやって!」と言っていたのが印象的だった。

 

・僕が跳びはねる理由

東田直樹の同名本が原作のドキュメンタリー。自閉症者が見る世界を画面と音響からなんとか表現しようとしている。

この映画は自閉症を客観的にではなく、あくまで主観的に語っていて、自閉症者の「普通」を知ることができたような気がした。

内容自体は素晴らしいし、劇場体験としても素晴らしいものだが、正直に言うとドキュメンタリー映画としてはどうなのか?と思ってしまった節がある。基本的に5人の自閉症者への密着で映画は進んでいくのだが、その途中に挟まれるイメージ映像のような部分(小さい男の子が歩き回ったりするやつ)がどうも邪魔に感じてしまった。あれが入ることによりどこか劇映画のように感じられてしまい、映画全体がなんとなく軽くなってしまうような気がしてしまう。

NHKの『ドキュランドへようこそ』の枠のような映画だった。何度も言うようだが、内容自体は素晴らしいしとても勉強になるので是非。

 

・椿の庭

写真家の上田義彦の初監督/脚本/撮影作品。さすが写真家なだけあって画がとても美しい。

長い間大事に住んだ家が取り壊されてしまうまでの話。その土地や建物に染み付いた記憶がそれぞれの思い出になるまでを丁寧に描いている。シム・ウンギョンはこの作品が日本での初出演作だったらしいが、さすが素晴らしい演技。私の大好きな『牯嶺街少年殺人事件』のチャン・チェンも出てきてびっくり。

上でも書いた通り、画はとても美しく、ハッとさせられるカットもあるが、いかんせんカメラオペレーションが下手すぎる。自分がそうなので余計気になってしまうところもあるのだが、写真は動きを止めるメディアなのに対して、動画は動きを記録するものであり、被写体を捉え続けるのか、画角内に戻ってくるのを待つのか、というところで迷った挙句、一番気持ちの悪い動きをしてしまう、というカットが散見されてキツかった。やけに長いインサートもつらいものがある。この感じで2時間以上の尺は厳しい。話自体は『おおきな木』みたいな話です。

 

・クリシャ

地獄!今までトレイ・エドワード・シュルツが手を替え品を替え描いてきたテーマは、長編デビュー作で既に描ききっていた!トレイ・エドワード・シュルツの煮凝り!

依存症により子供を手放した過去のある主人公クリシャが、親族一同集まる感謝祭に出席することで、家族が地獄の様相を呈してゆく、最悪のファミリードラマ。

家族の一人一人が波風を立てないように上辺だけの言葉をかけあうあの空気感、みんなで守ってきた仮初の和気藹々をピリッとさせる人のあの感じ、特別な日にみんなで食べる七面鳥があんなに恐ろしく見えるなんて。

しかしやはりデビュー作なだけあって荒削りな感じはした。私は『イット・カムズ・アット・ナイト』が大好き。しかし確実に面白い(面白い?)。映画館が閉まっていく今、公開を決めたユーロスペースに感謝。

 

 

また緊急事態宣言が出てしまい、また劇場が圧迫されている。感染対策を徹底して劇場に通い続けることが一番の支援と抵抗であると日々感じる。しかし続々と映画館が休業に入っていく様を見るととても切なくなる。どうにかならないものか。

みなさんも安全に健やかにお過ごしくださいね。そしてできればでいいので、無理はせずに、劇場に行ってみてください。

今月観た映画

暖かくなってきましたね。

今月劇場で観た映画の感想です。

 

・野球少女

面白い!韓国高校野球で「天才野球少女」と括られ、しかしプロテストは「女子」ということで受けられない主人公スインの、性別の話だけど性別の関係ない人間同士の話。

韓国における部活動はプロになる人しか入らないものらしく、その中で「なれないよ」と言われながらもそれを跳ね除けてひたすらにボールを投げ続けるスインの姿にはグッとくる。そしてその無垢さにだんだん周りの人間たちが「天才野球少女」としてではなく「選手」として接していくのも爽やか。ストーリーだけ見ればスポ根っぽいが、映画自体はとても静かで、引きの韓国映画の良さが存分に出ている。

『あのこは貴族』でも感じたけど、近年のシスターフッドとか女性性の抑圧を題材にした作品への「共感はできるけど、現実の構造的には私も男性であって加害側なんだよな」というモヤモヤと、それ故にその作品への言及がやや憚られる(してたが)感じが、性別の話だけど性別の関係ない人間同士の話として描くことによってなくなっていた。あくまで個人的な意見だが、こうなってくれることはとても嬉しいというか、これこそが差別なき世界だと考えているので、その語り口にはグッとくるものがあった。

 

ビバリウム

おんなじ家がずっと続く変な街に閉じ込められてしまったカップルの話。ルネ・マグリットエドワード・ホッパーの映像化。同じ景色が永遠に続くフラクタルの怖さを存分に感じられる。開けた閉所!宇宙か!

観ている間に『マザー!』をずっと思い出していて、また旧約聖書の話だ!と思っていたら、誰も旧約聖書への言及はしておらずしょんぼりした。

『ヘレディタリー/継承』あたりから始まった公式サイトに解説をつけてあたかもそれが正解ですみたいな面するの本当にやめてほしい。ホラーは答えなんて出しちゃダメなジャンルだと思っているので……。

エンドロールに大音量でXTCがかかるの良かった。XTC大好きです。

 

・まともじゃないのは君も一緒

面白い!恋愛経験ゼロの清原果耶とコミニュケーション能力ゼロの成田凌スクリューボールブコメ成田凌の凄みを見た。

劇中めちゃくちゃ歩く!ロケに横浜を使っていて、知ってる景色を清原果耶と成田凌が歩いていて面白かった。いわゆる「普通」の価値観って何?という問いを突き付けながら「普通」を生きる人たちを否定せずに自分なりの答えを出す部分はとても爽やか。現代の日本を舞台にここまで笑えるスクリューボールブコメはめちゃくちゃ貴重なのでは。

清原果耶の様々な服装が見られて楽しい。成田凌が立ってるだけでめちゃくちゃ面白いカットもあったりして、演者陣の力がすごい。あとは終わりかた!おわり!最高!

 

・ミナリ

アメリカで生きる韓国系移民の家族の話。

とにかくおばあちゃんが良い。孫を無条件に愛し、空気を読まずにガンガン言うおばあちゃんがその場の空間を支配するあの感じがとてもリアル。身の回りの状況を選択できない子供たちが、大丈夫な顔の奥に戸惑いを見せる瞬間が何度もあり、胸が苦しくなった。しかし弟のデイヴィッドがしっかりと成長していく様を見られたのでよかった。

基本的に不幸しか起こらないのに、なんとなく飄々としていて、ラストの最大の不幸なんてもはや希望みたいに見える。バラバラになりかけた家族がまた一つになるきっかけは不幸なのだろうか。最後まで観た後に『ミナリ』というタイトルがじわじわと効いてくる。おすすめ!

 

・夏時間

大傑作!とにかく劇中涙が止まらなかった。『ミナリ』で語られなかったお姉ちゃんの話。

夏休みも終盤になり、普段遊んでる友達もどこかへ旅行へ行ってしまい、休み自体に飽きてきて、でもまだ宿題はたくさん残っていて、というようなあの頃の感覚をありありと思い出させられる。

家の中ではまあまあままならない事態が展開されていて、子供ながらにこれはままならないぞ、となんとなく分かっていても、空気をあえて読まずにちょけることで場の空気をなんとか軽くしようとするあの感じが切なくていじらしくて涙が出た。喧嘩のシーンもおいおい泣いてしまった。

私は姉のいる弟なので姉弟間のリアルさが生々しすぎて食らってしまった。この間、祖父の葬式があり、家が遠いため葬儀場に泊まったのだが、ほぼ同じ景色がスクリーンに映っていて、「これは私の映画だ!」と思ってしまった。

まだまだ良いところはたくさんあるけど、とにかく大傑作!まだやってるところがあったら急いで観に行って!

 

ノマドランド

炭鉱の閉鎖による強制立ち退きにより、車上生活を余儀なくされた「ノマド」たちの、さみしさと別れについてのドキュメンタリーでありロードムービー

アメリカの雄大な自然に身を委ね、各地で少しずつ働きながら、出会ったノマドたちと触れ合い、様々な景色を見る。それが一瞬羨ましいとさえ思うが、彼/彼女らは筆舌に尽くしがたい孤独と喪失感や辛さを抱えていて、さらにスクリーンに映るノマドたちのほとんどは本物というところに、日本で過ごしている私には分かり得ない感情があるのだろうな、と自分の不勉強と世界の狭さを呪ったり。

拠り所を与えてくれる人たちはいるのに、主人公のフェーンは別れを永遠にしないために道路を走り続ける。「この生活にはさよならがない。またどこかで会える」というセリフに全てが詰まっている。「重なる一瞬の日々に輝く一瞬の火花/共に眺め心震わせようじゃないか」という詩を思い出したり。

全てを肯定した先にある社会派映画でありながら、ドキュメンタリーでもあり、ロードムービーでもあり、しかし老人たちの青春ムービーでもある、かなり多面的な観方ができる、静寂の中に確固たる芯のある強い映画だった。傑作です。

 

モンスターハンター

ポール・W・S・アンダーソンは最高!久々のミラ・ジョボヴィッチ。最高のホームビデオ。

今作の手法は完全に10年前の映画で止まっている。スローモーション多用!飛び出す3D!早いカット!ド派手CG!

でかいモンスターパニックに始まり、群体モンスターパニックになり、またでかいモンスターパニックで終わる。しかしそのひとつひとつのパニックがちゃんと絡み合っている!しかしながら完全に官能的な映画!ただただ気持ちいい!ストーリーなんてほぼない!ただただ戦う!それだけ!ファーストカット山崎紘菜で最高!トニー・ジャーかわいくて最高!最高最高最高!

最寄り駅におおきな商業施設ができて、部活が休みの日に大作アクションを観に行っていた中学生の頃を思い出して、意味のわからない涙が出てしまった。これは完全に我々世代のノスタルジー映画。この世で一番面白い。映画って結局こういうのが良いんだよ!

通常上映で観たら絶対面白くないと思ってIMAX3Dで観たけど、完全に大正解でした。飛び出す3Dは人のテンションを上げる力がある。

 

3月は本数観られないかもと思っていたが、わりと観られた。よかった。今月の映画は強かった。

映画制作も佳境に入ってきて、だいぶ大変だけど、大変であればあるほど楽しい。演者さんがみんないい人。本当に良かった。まだあと1日撮影が残っているのでラストスパート頑張りたい。

今月観た映画

依然として寒いですね。今月劇場で観た映画の感想です。

 

・ブレスレス

面白い!水難事故で亡くした妻の姿を絞首プレイに見出していく、フィンランドから届いた歪な純愛ドラマ。

なんてったって原題が良い。『Dogs Don't Wear Pants』、犬はパンツを履かない。『ほえる犬は噛まない』に次ぐ犬タイトル!犬の意味は違えど!脚本は少々荒削りな部分もあるが、それらが気にならないほど映像が良い。サランラップ長回しカットとラストシーンは映画史に残るべき。特にラスト。素晴らしすぎる。

SMや絞首など不穏な要素が盛りだくさんだが、あくまでそれは要素でしかなく、描いているのは恋が始まる瞬間のキラメキ、つまりはフィンランド流キラキラ映画だ!『フィンランド式残酷ショッピング・ツアー』なんて映画もあったけど、こっちはちゃんと映画をやってるぞ!

読後感もとっても爽やかでかわいく、私はめちゃくちゃ好きな映画でした。ただ一つ欠点を挙げるとするならば、人におすすめしづらい!ネタがきわどい!でも面白い!観て!

 

・ヤクザと家族 The Family

1人のヤクザの一生を3つの時代から見つめるヒューマンドラマ。綾野剛はやっぱりすごい。

全体としてはかなり良いが、終盤からラストにかけてはややテンポが落ちる感じは否めない。時代や世論の変遷を刑務所に入ることで遮断されてしまった男が、周りの過去の友人や大切な人と共通の言語を話せなくなってしまう、という部分では『花束みたいな恋をした』を思い出したり。あとはオノマチが学生役をやってて、もちろんかわいいけど流石に学生は難しいのでは……?と思っていたら「お前老けてんな」という台詞が出てきて笑ってしまった。

しかし画のアプローチが良い。三幕がそれぞれのサイズと撮影方法を執っていて、さすが今村圭介……。撮影部志望として学ぶことが多い作品だった。

 

・すばらしき世界

面白い!人生の大半を刑務所で過ごした役所広司のワンスアゲイン。西川美和の初原作モノにして最高傑作。

とにかくバランス感覚が良い!そしてこれを全国ロードショーでやる意味、それこそがこの作品の本質であり言いたかったことなのではないだろうか。あまり前情報なく観てほしいので、書くのが難しい。

上野駅での待ち合わせシーン、教習所のシーン、スーパーの店長と仲良くなるシーン、パーティーシーン、とにかく一つ一つのシーンが三上と過ごした大切な思い出のように、可愛らしくて愛おしい仕上がりになっている。そしてなんといってもラストシーン、本当にすばらしいよ、胸を打たれたよ。本当にサイコーだよこの世界は。

あとはパンフが素晴らしい!脚本がまるまる載っている!分厚い!読み応えがすごい!これで1000円なんて実質タダも同然よね。買うべし!

 

・春江水暖

またしても中国から化け物が生まれてしまった……。中国第8世代(と言っているのはカイエデュシネマだけらしい)の監督、グー・シャオガンの長編デビュー作。

これと言って作品に内容があるわけではないし、ドラマがあるわけでもない、なのに何故か惹きつけられる魅力がこの映画にはある。映画のわりと序盤に出てくる10分53秒の水泳長回しシーンは白眉。劇的なことが起こるのかと思ったら、ただただ愛おしい時間がそこにある、ということだけを描くための長回し。なんて豊かなんだろう。学校で「ドラマを作れ!」と怒鳴られているのが馬鹿馬鹿しく感じるほどだ。

とにかく画面が美しく、静かなシーンを重ねて感情を丁寧に表現する、私はこの作品を観ている間、美術館のことを思い出していた。美術館へ行った時のあの感覚、あれを再現できる映画だ。順路を左から右へと進んでいき、そろそろ終わってしまうのか、と少しのさみしさを抱えながら静かに歩みを進める、最後の画をじっくりと目に焼きつけたら、出口付近には「第一章 終わり」の文字。『春河水暖』の会期はまだ続くようだ。

 

・ベイビーティー

私の昨年のベスト映画、『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』の三女、ベス役を演じたエリザ・スカンレン主演作。病を抱える女の子と不良のラブストーリー。

あらすじを見る限り、言ってしまえば何回も観てきたタイプのいわゆる難病モノだが、本編はしっかりとアートっぽくもありつつ、いかに今までの難病モノにならないようにするかを大事にしていて、そっち方面のあざとさを感じさせない作りになっていた。

「死」というものを描くことで「生」を描くのではなく、「死」が隣にあるからこその「生」を思い切り楽しむ、メメント・モリの映画だった。こんなにも鮮やかで儚く美しい死と生の描き方があったかよ。

ラストシーンも良い。あの素敵なビーチが灰色の空なのも良い。ピンクのエンドロールも良い。かなり好きな映画でした。

 

・あの頃。

実質山下敦弘だ!劔樹人のエッセイ原作を今泉力哉が監督した本作。仲野太賀が『すばらしき世界』に続き素晴らしい。

いわゆるホモソーシャルな内輪ノリにウッとなる部分もあるが、彼らのその瞬間のキラメキや救いなどを丁寧に描きつつも、引きの長回しでそれらを俯瞰して見ているような視点で、とにかく良い距離感だった。

私もアイドルは接触とかは行かないけどライブは観に行くくらいに好きであり、擬似恋愛対象ではなく、彼女たちを表現の一端やチームとして応援するんだ!というあの気持ちにとても共感できた。

それにしても仲野太賀。最初にも言ったけど仲野太賀。凄すぎる。日本の宝ですよ、もう、ほんとに。悲しみや苦しみを吹き飛ばすために虚勢のように明るく振る舞い、高らかに周りに毒を吐く、あの瞳の演技は堪らないものがあった。仲野太賀。

 

・あのこは貴族

素晴らしい!門脇麦水原希子のダブル主演による、今観るべきシスターフッド。誰も否定しないが、すべての人に向けられた課題。

ほんともう蹴落とし合いとか啀み合いとかいらないよね!問題の原因を他者に求めてしまうのはきっとその方が楽だから。しかしそれをやめると、すべての問題の責任は自分自身に向かうのであって。でもそれは個々人がそれぞれ抱えているのだから、互いに手を取り合っていこうよ!なんていう普遍的な場所への着地、しかし提起された問題は我々に優しく静かにしっとりと重くのしかかってくる。そんな映画。「普通」は全力で築き上げるものなんだということを再確認した。『その夜の侍』でもそんなこと言ってたね。

しかしこの映画はとにかく画が美しい。いわゆる上流階級の話だったりもするので、静かなシーンが多いのだが、それがジメジメではなくあくまでしっとり。あれってどうすればああやって撮れるんだ。美術もカラグレも最高。

雨の東京って画になるね。私も傘をさして東京を歩きたくなった。やっぱり田舎者だから、あからさまに東京っぽいところにはテンションが上がってしまう。自転車2人乗りのシーンで私は号泣しました。観るべし!

 

 

今月は傑作が揃っていました。というか邦画が強い。

3月はいよいよ撮影に入っていきます。楽しみだ。また、観たい映画も続々と公開になっていくので、何本観られるかな、合間を縫ってなんとか観にいきたい。

今月観た映画

明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。今月劇場で観た映画の感想です。

 

・恋する遊園地

エッフェル塔と結婚した女性のニュースから着想を得たラブストーリー。本当に"ただの"ラブストーリーだった(いい意味で)。

最初は『ホース・ガール』のような話なのかと思っていたが、想像以上に爽やかな話だった。途中完全にSFになる瞬間や演出があるが、ASD持ちはキラキラしたものに惹かれるという点も考えて、彼女には本当にそう見えていたのだと思う。

壮大なSFの着地点が極個人的な感情のパターンも大好きだけど、今作の日常の中に一滴だけSFチックな演出を入れるパターン大好きです。

中でも機械油とまぐわうシーンは白眉。エロ/グロの塩梅がちょうどやらしくならないところで止まっていた。わりと生々しい描写なんだけど、真っ白な空間で行われるという非現実感も持っていて良かった。

愛って自由だよね!全ての人の愛を肯定してくれる、とっても優しくて爽やかな映画でした。めちゃくちゃ好き!パンフ作って!

 

・Swallow / スワロウ

異食症を扱いつつも、意外な方向にシフトしていき、シンプルかつ力強い着地をする傑作。全ての人に観てほしい。ベストエンドロールオブザイヤーにノミネートです。

ネタバレと言うほどでもないけど、予告編から受ける印象とは全く違う映画だった。後半で明かされるさまざまな過去や感情のほつれに胸がギュッと締めつけられる。

異食症という異物を飲み込む摂食障害の画面の(失礼になるかもしれないけど)面白さとシナリオ構成の面白さ、読後感、全てのバランスが素晴らしく、最後の最後まで目が離せない作品です。

とにかく観て!めちゃくちゃ面白い!まだ1月だけどきっと今年のベストに入ります!パンフ作って!

上の『恋する遊園地』と連続して観たので、奇しくも金属が魅力的な映画2連発だった。

 

・花束みたいな恋をした

こんな映画作るな!坂元裕二脚本で菅田将暉有村架純のダブル主演という最強の布陣で出来た最強にして最恐の映画。

とにかく固有名詞の応酬。やりたい放題やってんな!というくらい固有名詞。というか『なんとなくクリスタル』。その出てくる固有名詞が2015-2020のポップカルチャー周りなもんだからもう全て知っていて、嫌でも登場人物たちに自分が重なってしまう。しかし同族嫌悪的なものもあるのかもしれないが、その登場人物たちが本当に苦手だ!しかしとても輝いているんだ!だから余計につらい!やめてくれ!過去の自分がこうだったとは絶対に思わないけれど、過去の概念の部分だけが抽出された球を顔面にずっとぶつけられ続ける。

お前ら最初からカルチャーそんなに好きじゃねーだろ!とツッコミを入れたくなるが、もう2人が楽しそうだからなんでもよくなってくる。「すいませんね、こっちが勝手につらくなってるだけなんで……。へへ……」みたいなテンションだ。

脚本に関しては明らかに偶然が多すぎる。しかし(それこそ)固有名詞を出したり、実際に起こった出来事を時系列で見せられるが故に、リアリティが損なわれているわけではなく、むしろこの2人は奇跡のような存在だったんだな、と思わせるつくりになっている。そこに社会性と"人と関わること"の普遍性をしっかりと描くことで上手く話を締めることに成功している。とにかく脚本が上手すぎる。

めちゃくちゃ面白いし、良い映画だし、好きだけど、本当に嫌いだし、「好き」とか言いたくないし、人に「面白かったよ」と言いたくないし、本当はこんなブログも書きたくないし、二度と観たくない。もうどうすれば良いのかわからない。本当にこんな映画作らないでくれ……!身体も心も持たないよ……!

岡崎体育が『MUSIC VIDEO』のMVを出した時と同じ感情になった。そして私は坂元裕二の手の上で踊らされているうちの1人でしかないのだろうな……。

とにかく坂元裕二の脚本のとんでもないレベルの高さと底意地の悪さが顕著に出た問題作だ。これからのいわゆる「サブカルチャー」の方々のリトマス試験紙となる一本。見逃すわけにはいかない。

 

 

今月は少し忙しくて3本だけ。しかし観たい映画というのも少なく、やっぱりこれから映画は不作なのだろうか、と思ったりした。

来月は後半からまた制作が始まるが、自主制作なので楽しみ。好き勝手撮るぞー。

今年観た映画 個人的ベスト13

今年はいろいろなことがありました。いろいろなことがあった2020年に劇場で観た、公開になった映画をランキング形式でご紹介します。ランキング形式ですが、実際は全部1位です。本当は話したい映画が28本ありましたが、さすがにそれは多すぎるということで頑張って13本まで絞りました。中途半端な数ですが、どう頑張っても13本が限界でした。お暇なら。

ちなみに核心には触れませんが、少し踏み込んだことも書くので、ネタバレを気にする方はお気をつけて。

 

劇場で観たもの

・ヘヴィ・トリップ/俺たち崖っぷち北欧メタル!

ティーンスピリット

・ラストレター

・リチャード・ジュエル

ジョジョ・ラビット

・パラサイト 半地下の家族

・his

・mellow

・9人の翻訳家 囚われたベストセラー

・1917

・アントラム 史上最も呪われた映画

T-34 レジェンド・オブ・ウォー ダイナミック完全版

・ミッドサマー

・恋恋豆花

・ロングデイズ・ジャーニー この夜の涯てへ

・架空OL日記

・ジョン・F・ドノヴァンの死と生

・弥生、三月 -君を愛した30年-

・コロンバス

・ライト・オブ・マイ・ライフ

・デッド・ドント・ダイ

・ルース・エドガー

・凱里ブルース

・悲しみより、もっと悲しい物語

・スウィング・キッズ

・燕 Yan

・ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語

・はちどり

ゲド戦記

・ワンダーウォール 劇場版

・レイニーデイ・イン・ニューヨーク

・透明人間

WAVES/ウェイブス

・アルプススタンドのはしの方

・ドロステのはてで僕ら

・ステップ

・君が世界のはじまり

・僕の好きな女の子

・ディック・ロングはなぜ死んだのか?

思い、思われ、ふり、ふられ (実写版)

・ブックスマート 卒業前夜のパーティーデビュー

・ソワレ

・僕たちの嘘と真実 Documentary of 欅坂46

・mid90s ミッドナインディーズ

・チィファの手紙

・マティアス&マキシム

・鵞鳥湖の夜

・蒲田前奏曲

・フェアウェル

・TENET テネット

・ラストブラックマン・イン・サンフランシスコ

・異端の鳥

・星の子

・遺灰との旅 (日本未公開)

・アンダードッグ 前編

・アンダードッグ 後編

ジオラマボーイ・パノラマガール

・彼女は夢で踊る

・罪の声

ホモ・サピエンスの涙

・佐々木、イン、マイマイ

・燃ゆる女の肖像

・私をくいとめて

 

配信で観たもの

・ホース・ガール

・37セカンズ

・その住人たちは

・ハーフ・オブ・イット 面白いのはこれから

・最高に素晴らしいこと

・バニシング

・劇場

・もう終わりにしよう。

・ヴァスト・オブ・ナイト

・そこにいた男

・幸せへのまわり道

・ブルータル・ジャスティ

 

以上75本

 

第13位

『罪の声』

邦画のミステリ/サスペンスは特有のダサさというか、なんとなく落ちつかないあの感じがあってノットフォーミーだと思っていたのだけど、今作にはそれがとても少なくて、これからこういう邦画ミステリ/サスペンスが主流になっていくのでは!という未来が見えた。

また、2時間半という長さなのに中弛みがなく、ひとつのネタで最後までしっかりと描ききっていた点は素晴らしいと思った。

そしてなんと言っても宇野祥平。素晴らしすぎる演技、凄まじい存在感、彼が出てきた瞬間作品の空気がガラッと変わった。完全にギアチェンジした。この作品の素晴らしさの半分くらいは担っているのではないだろうか。とにかく素晴らしい。本当に良かった。


第12位

『アルプススタンドのはしの方』

まず「グラウンドを一切見せない野球映画」という部分がすごい。野球を全くと言っていいほどわからない、ルールすらあやふやな私が観ていても、球場で何が起こっているのかがわかるのは流石としか言いようがない。(野球がわかる人からはダメだったらしいが……)

画面的には情報が少なく、シンプルな展開の中で作品側が伝えたいことをしっかりと伝えている。脚本が上手い。75分という時間も潔くて良い。『ブックスマート〜』とは違い、しっかりと高校生に向けた映画として作っている感じがした。

そして個人的には平井珠生をスクリーンで観ることができた初めての作品という部分でも心に残った。平井珠生は最高……。

 

第11位

『燃ゆる女の肖像』

今月観たばかりなので更なる感想が書きづらいが、とにかく良かった。最近観たバイアスがかかっているだろうと踏んで少し低めにつけたが、本当はもう少し上位かも。

激しい感情を表に出さない視線の演技、そして徹底的に無駄を排した引き算の演出が素晴らしい!こちらに感情を読み解かせる構図の強さも相まって、とても静かな、しかしジェットコースターのような作品に仕上がっている。

そしてラストの畳み掛けがもう!「最後の再会」という言葉から既に最高なのに、実際の最後の再会は、ねぇ!?このラストシーンのためだけでも、いや、このラストシーンのために是が非でも観てほしい!

 

第10位

『ロングデイズ・ジャーニー この夜の涯てへ』

中国からとんでもない化け物が現れた……!と観終わった時に思ったのを強く覚えている。絵からストーリーから、全てが美しく幻想的。そして60分ワンカット。どうやって撮っているんだ!カッコつけ感は否めないが、ちゃんとカッコついてるので良し。

やってること自体はデビュー作の『凱里ブルース』と同じだが、再構築してさらに洗練させ、確実にレベルアップしているのでこちらをランクイン。あと最初にこっちを観たから、というのも大きい。

新型コロナウイルスが流行りはじめて3D上映が少なくなってきていたところを、絶対に3Dで観たかったがためにメガネ買い切りのイクスピアリまで行って観た。誰もいない劇場で映画の途中から3Dメガネをかけて夢に落ちてゆく。完全に映画とリンクしてしまった思い出。観終わって劇場を出たらディズニーランドが休園しますと発表していて「地球最後の日」感があったのも印象に残っている。

 

第9位

『ヴァスト・オブ・ナイト』

「何かが空にいる」という不明瞭で気味の悪い謎に「観る」のではなく「語る」「聞く」ことで迫っていくSFスリラー。アプローチの方法に『霊的ボリシェヴィキ』を思い出す。

50年代アメリカの田舎町の「古き良き」感は最高だし、その田舎町全体がバスケットボールの試合に夢中になっている中、謎に迫っていくラジオパーソナリティのおじさんと電話交換手の女子高生という構図がたまらない。怪異はいつだって日常のすぐそばに潜んでいる。

あくまでSFに徹底するストーリーだが、そこには人種やジェンダーなどのテーマがあり、そこの絡め方、そして50年代を描いているからこそのおそらく当時そういう反応だったんだろうな、という登場人物のリアルなリアクションは、現代に繋がってくるものだと思わされた。

 

第8位

『アンダードッグ』

熱すぎる。負ける強さ、戦う理由、勝利のあり方、何かと戦っている人全員に観てほしい。

前後編合わせて約4時間半という長丁場をダレることなくしっかりと1本の作品として徹底したバランス感覚の良さ、前編と後編でがらりと作品のトーンが変わる中、あくまでその底を流れる共通のテーマを描き切った部分は圧巻。

個人的には売れないお笑い芸人、宮木のストーリーに涙が止まらなくなってしまったので、後編より前編の方が好き。前編の終わり方も最高。しかし後編にも宮木は出てきて、宮木が生きている!となった。宮木がんばってくれ!宮木応援してるぞ!セコンドのロバート山本博もたまらない。

とにかく熱く面白く泣ける作品。観るのであったら前後編のイッキ観一択です!

 

第7位

『コロンバス』

 とても個人的な理由になってしまうが、建築が好き、フィックスが好き、長回しが好き、構図バチバチの映画が好き、ベースノイズがよく聞こえる静かな映画が好き、登場人物の少ない作品が好き、誰かの人生の一部を垣間見るような作品が好き、という私の趣味がすべて詰まっていた作品だった。

「好きなものを説明してほしいのではない。なぜあなたがこれを好きなのかを説明してほしい」というセリフには激しく頷いた。とにかくこの映画は私のフェチムービーだったのだ。毎年1本はこういうフェチムービーに出会ってしまい、ランキングに入れざるを得なくなってしまう。

派手な面白さや分かりやすい楽しさは全然ないが、自分の大切な人にこっそり教えて静かに噛みしめたい、そんな作品だった。

 

第6位

『フェアウェル』

 今年のA24作品群の中では一番良かったのでは。余命宣告をされたおばあちゃんに、その事実を嘘で必死で隠し通す家族の姿は、私の大好きな『鈴木家の嘘』を思い出す。

しかし今作がすごかったのはあくまでメインで起こる出来事を結婚にとどめたことだ。ぱっと見は結婚式のために久々に集まった親戚一同なのだ。しかしそこにいるおばあちゃん以外のすべての人に「おばあちゃんの命が短い」という共通認識を持たせるだけで、ここまで事件が起き、ここまで何気ないワンシーンがドラマチックに映るのだ。その物語の進め方にはなるほどな、と思わされた。

A24の好きそうな美しくも眠いような色味と、時々挟まる突飛なギャグが相まって涙が止まらなくなる。後部座席から見える景色はいつだって切ない。

 

第5位

『アントラム 史上最も呪われた映画』

 観たら死ぬ!と言われ、封印された映画を全国上映!という時点で評価すべき作品。ちなみに私が死んでいないのはたまたま運が良かっただけなので、観るときは本当に気を付けてください。

ホラー映画だと思って観に行った人たちに「全然怖くねーじゃん!」と酷評されている今作。それもそのはず、これはホラー映画ではない。映画の皮を被った「オカルト」そのものを体験できるシロモノなのだ。この映画を作った人たちの「殺してやる!」という気概はビンビン伝わってくるし、実際この映画は本当に人を殺す力を持っている。とにかくすごい作品なのだ。

「怖くない」と評判の本編も(怖くはないが)クオリティの高いスリラーになっており、普通に面白く観られる。信じるとは疑ったうえで受け入れること!疑っただけでそれをあざ笑うのは誠実ではないよ!死んじゃうよ!

オカルト好きは是非!オカルトが全然わからない人も是非!

 

第4位

『ヘヴィ・トリップ/俺たち崖っぷち北欧メタル!』

 2020年一発目に観た作品が4位にランクイン。とにかく笑って泣けて熱くなる、最高の映画。世界一下品で汚い『リトル・ミス・サンシャイン』です。

メタルを全然知らない人でもばっちり面白いし、メタルを少しでも知っていればさらにクスッとできる。私はどうしても彼らのバンTが欲しくて直腸陥没BOXを予約購入した。あのアー写がプリントされてるTシャツなんて買うしかないだろ!しかも映画グッズではなく、あくまでインペイルドレクタムのバンTとして作っているところに音楽愛を感じた。

軽く観られる作品かと思いきや、ちゃんと大切なことは伝えきっているし、終わり方も潔い。とにかく観てほしい一本だ。

 

第3位

『僕たちの嘘と真実 Documentary of 欅坂46

アイドルドキュメンタリー映画は基本的にハズレがない。しかしこの作品は他のそれらよりも明らかに一線を画していた。

桐島的立ち位置の不在の中心である平手友梨奈の強さと脆さ、そしてそれに立ち会ってしまった周りの人間たちがボロボロになりバタバタと倒れ、諦め、逃げ、依存する姿を生々しく撮っている。しかし本作のテーマはそれを見せることではなく、アイドルという「人間を商品にする商売」に対する向き合い方を問われている。「子供たちにこういうことをさせて、大人たちはどう責任をとるべきなのでしょうか?」という言葉が作中に何度か出てくる。監督もこのある種の加害性に気付いているのだ。その質問に対して、彼女たちのダンスレッスンをし、いちばん近くにいた人物は「見続けること」と答える。これって全てに繋がってくるのでは?

簡単に好きという事実をひっくり返せるようになってしまった現代で、自分の好きなものに対してどういう姿勢でいるべきなのかを問われる、現代社会のドキュメンタリー。全員観て!

 

第2位

『佐々木、イン、マイマイン』

今年の邦画ではダントツで良かった。正直どんな理由でここまで揺さぶられているのかイマイチわかっていない。しかしとにかく心に深く刺さってしまった。

佐々木コール、バスケ、バッティングセンター、パチンコ、苗村さんとのカラオケ、いつか思い出して懐かしくなる日々の愛おしさがギュッと詰まっていて胸が苦しくなった。「今が一番眠くない」というセリフがそれを突いていると思う。

中でもカラオケが最高。友達は『WOW WAR TONIGHT』を歌ってる中、隣で歌われる『プカプカ』に心惹かれたり、その後に『化粧』を歌う……。なんだよその選曲は〜!とくすぐられまくる。

誰しもの心のひだのどこかに引っかかる傑作だと思う。邦画、まだまだ行けるぞ……!と思わされ、励まされてしまった。ピーキーな作品だけど、とにかく良い。

 

第1位

『ストーリー・オブ・マイライフ/私の若草物語

加点方式で観たらガンガンポイントを稼いでいくし、減点方式で見たらひとつもこぼさない。つまり完璧な映画。文句なしに今年ベスト。

自分の「好き」に正直でいることの大切さ、「好き」が認められない苦しさと叶った時のワクワクなど、「好き」に関する機微がとても繊細に、しかししっかり面白く描かれていた。

私はアートとエンタメは両立できると思っているのだけど、この映画はその両立に(しかもいやらしさがひとつもなく!)成功している。おしゃれなのにアカデミックでかわいくて面白い。それって最高じゃん!

とにかく観て!それだけです!シャラメもピュー子も最高です!おわり!

 

以上です。ランキングをつけているけれど、ランクインしている時点で全部1位なので順位に大きな意味はないです。映画以外のものもさらりと。

 

良かったドラマ

『殺意の道程』

 

良かったマンガ

『水は海に向かって流れる』

 

良かった音楽

AGE FACTORY 『EVERYNIGHT』

 

そんな感じです。

今年は4月5月がボコっと抜け落ちてしまって、それがなかったら100本行ってたのかな〜なんて考えています。そのかわり家でかなり観ました。自粛期間の間に50本映画観たりしてました。暇だったんですね。

色んな人が言っている通り、今年は青春映画が豊作でしたね。様々な青春の形が、青春が奪われてしまった今年に公開になるという小さな奇跡みたいな状況がすこし面白かったりしました。

暗めの1年になるのかな、とも思っていましたが、今年も面白いものたくさんありましたね。来年も面白いものが絶えない世界であってほしい。

映画の感想を書くのは来年も細々と続けていく予定なので、たまに思い出して見てやってください。今年もありがとうございました。